昨今のインボイス制度や電子帳簿保存法の改正など、目まぐるしく変化する経理実務のなかでも、経理担当者が特に理解しておきたいのが「優良な電子帳簿」です。これは電子帳簿保存法において、特定の要件を満たして保存される国税関係帳簿(仕訳帳や総勘定元帳など)のデータを指しています。通常の電子データ保存よりも高い基準をクリアしたこの帳簿には、税務調査時のリスク軽減をはじめとしたメリットがあります。
経理のDX化を進めるうえで重要な目標となる「優良な電子帳簿」の基礎と、その導入について解説します。

電子帳簿保存法では、会計ソフトなどで作成した帳簿データを保存する際、最低限守らなければならない「一般要件」と、より信頼性の高い「優良要件」の2つを区分しています。「優良要件」と認められるためには、単にパソコンの中にデータがあればよいというわけではなく、データの真実性(改ざん防止)と可視性(検索・表示)を高いレベルで保証する必要があります。具体的には、訂正や削除を行なった際にその履歴がすべて自動的に残り、内容を確認できる機能が必要です。
また、通常の検索機能に加え、範囲指定や複数の条件を組み合わせた複雑な検索ができることや、仕訳帳と総勘定元帳などの関連する帳簿同士が相互にリンクしており、スムーズに照合できることも求められます。つまり、税務署側から見て、データが改ざんされておらず、追跡調査が容易なシステム環境で作成された帳簿が、「優良な電子帳簿」として認められるということです。
「優良な電子帳簿」を導入する最大のメリットは、税務コンプライアンス上の優遇措置にあります。特に重要なのは、過少申告加算税の軽減措置です。もし、将来的に税務調査が入り、申告漏れなどを指摘された場合、通常であれば追徴税額に加えて過少申告加算税が課されます。しかし、あらかじめ届出を行い、優良な電子帳簿の要件を満たして管理・保存している場合であれば、その電子帳簿に関連する申告漏れがあった場合でも、それに対する過少申告加算税が5%軽減される規定があります。ただし、隠蔽や仮装があった場合を除きます。
また、個人事業主の場合には、青色申告特別控除におけるメリットもあります。通常55万円の特別控除ですが、優良な電子帳簿の要件を満たすことで、最大65万円の控除を受けることが可能になります。ただし、65万円の控除を受けるための要件は「優良な電子帳簿の備え付け」だけが選択肢ではなく、「e-Tax(電子申告)による申告」を行うことでも達成できます。したがって、個人事業主の場合は、特別控除を受けるためには必ずしも優良な電子帳簿が必須条件ではないという点は留意しておきましょう。
導入するうえで重要なのは、対応システムの選定です。自社開発のシステムでない限り、市販の会計ソフトを利用することになりますが、その際は「JIIMA認証」を受けている製品を選ぶのがベストです。これは公益社団法人日本文書情報マネジメント協会が、法的要件を満たしていると認証したソフトウェアのことで、そのなかでも「優良な電子帳簿」に対応している製品を選べば、機能面の要件についてはクリアできます。
次に、税務署への手続きが必要です。電子帳簿保存法自体は事前承認制度が廃止されましたが、「過少申告加算税の軽減措置」を受けるためには、あらかじめ所轄の税務署へ「国税関係帳簿の電磁的記録等による保存等に係る過少申告加算税の特例の適用を受ける旨の届出書」を提出しなければなりません。システムを入れるだけでは優遇措置は適用されないため、この手続きは忘れないようにしましょう。
前述したように、優良な電子帳簿の制度自体は、法人だけでなく個人事業主でも利用が可能です。事業規模が小さくても、税制優遇のメリットを受けられる権利は平等にあります。しかし、実務的な「手間の費用対効果」を考えると、慎重な判断が求められます。優良な電子帳簿の要件を満たすためには、厳格な訂正履歴の管理や詳細な検索機能を持つ高機能な会計ソフトが必要となり、運用コストや学習コストがかかる場合があります。もし、目的が「青色申告特別控除を65万円にすること」だけであれば、帳簿要件が厳しくなる方法を選ぶよりも、現在の会計処理のままe-Taxを利用して確定申告を行うほうがより目的を達成しやすいでしょう。
個人事業主が導入を検討する際は、控除額だけでなく「万一の調査時の安心感」や「帳簿管理の透明性向上」に、どれだけの価値を見出すかで判断しましょう。
「優良な電子帳簿」は企業の信頼性と管理能力を示す一つの指標ともいえます。導入にはシステムの選定や届出といった準備が必要ですが、この機会に、より強固で透明性の高い経理体制を構築してみてはいかがでしょうか。
※本記事の記載内容は、2026年1月現在の法令・情報等に基づいています。
事業を行ううえで、パソコンや製造機械などの設備投資は避けて通れません。通常、10万円以上の備品を購入した際は、数年に分けて経費にする「減価償却」を行いますが、一定の要件を満たす中小企業者等であれば、「少額減価償却資産の特例」を利用できます。これまで、資産の取得価額の上限額が「30万円未満」だったこの特例ですが、「令和8年度税制改正」により、「40万円未満」へと引き上げられる方針が示されています。
特例の仕組みをおさらいしながら、改正によって生じる変更部分を把握しておきましょう。

少額減価償却資産の特例における30万円未満という基準は、2003年度に制度が創設されて以来、20年以上もの間、変わることなく据え置かれてきました。
しかし、対象となる資産の価格も、昨今の原材料費や輸送費の高騰による「物価高」によって、上昇傾向にあります。以前なら30万円未満で購入できていた高性能なパソコンや専門的な機械なども、予算をオーバーしてしまうケースが出てきました。こうした実態に合わせ、現在の経済状況に見合った現実的な水準として40万円という数字が設定されました。この引上げによって、購入したその年に全額経費として計上できる物品の選択肢が大きく広がることになります。
そもそも「少額減価償却資産の特例」とは、どのような制度なのでしょうか。本来、10万円以上の備品を購入した場合は「固定資産」として登録し、法律で決められた耐用年数に応じて少しずつ経費化していく必要があります。これを「減価償却」といいますが、中小企業にとって一つひとつの備品を何年もかけて管理し、複雑な償却計算を行うのは、事務的に大きな負担となります。
そこで、青色申告を行う中小企業者等に限り、1個あたりの取得価額が一定金額未満であれば、購入した年度にその全額を損金として算入できるという優遇措置が設けられました。この特例を利用する最大のメリットは、利益が出ている期に設備投資を行えば、その分だけ利益を圧縮して法人税などの負担を軽減できることです。
法人税は、売上から経費を差し引いた「利益(所得)」に対して課されます。たとえば、事業に使用する耐用年数が4年で取得価額が20万円のパソコンを購入した場合、特例を使わないと「4年かけて少しずつ毎年、経費計上する」ことになります。法人税率を30%と仮定した場合、その年に経費計上できるのは5万円だけとなり、残りの15万円分には税金がかかるため、特例を使った場合と比べて、その年は4.5万円分(15万円×30%)多くの税金を支払う必要があります。しかし、特例を使う場合であれば、20万円全額が購入した年の経費になるため、その15万円について生じる税負担を、将来に繰り延べることができます。
上限額が40万円未満に拡大されて使い勝手がよくなる一方で、今回の改正では対象となる法人の範囲に一部変更が加えられた点には注意が必要です。「資本金または出資金の額が1億円以下の青色申告法人」という基本条件はそのままですが、常時使用する従業員数の要件が、現行の「500人以下」から「400人以下」へと引き下げられる見込みです。これは、より支援を必要とする小規模な企業や、中堅に近い規模の企業への重点的な支援を明確にするための見直しと考えられます。
また、この特例自体はもともと期限のある時限措置ですが、今回の改正に伴い、適用期限が2029年3月末(令和10年度末)まで、3年間延長されることとなりました。今後、数年にわたる設備投資の計画を立てるうえで、期間の延長は判断材料の一つになるはずです。この新しい基準は、2026年4月1日の取得分から適用されます。
これまで「あと数万円安ければ一括で落とせるのに」と購入を躊躇していた高スペックなIT機器や、少し高価なオフィス家具、特殊な工作機械なども、新しい枠組みのなかであれば導入のハードルが下がります。ただし、上限額は引き上げられましたが、年間の合計限度額などのルールは変わりません。この特例では、40万円未満の資産の購入費用を何個分でも自由に経費にできるわけではないことに注意が必要です。その事業年度に取得した対象資産の「合計額が300万円まで」しか認められないことになっています。合計が300万円を超える場合、どの資産を優先的に一括で経費計上するかは企業側で選択できます。基本的には、耐用年数が長く、通常なら経費化に時間がかかる資産から優先的に特例を適用するのが一般的です。
改正によって1点当たりの単価が上がった分、年間合計300万円という枠にこれまで以上に早く到達しやすくなります。「どの備品を特例にするか」という優先順位を、決算前にしっかりシミュレーションしておくことが大切です。
※本記事の記載内容は、2026年5月現在の法令・情報等に基づいています。
現在、国は地方の活性化を目的として、企業の地方進出や設備投資を強力に後押ししています。その要となる制度の一つが、「地域未来投資促進税制」です。この制度は、地域の特性を活かした成長性の高い事業を行う企業に対し、法人税などの負担を軽減させる制度です。適用期間は2028年3月31日までとなっており、中長期的な経営戦略を立てるうえでも非常に重要な選択肢となり得ます。
自社の成長と地域経済への貢献を両立させる「地域未来投資促進税制」について、その概要を説明します。

地域未来投資促進税制は、「地域経済を牽引する事業」に対して与えられる税制上の優遇措置です。企業が都道府県から承認された「地域経済牽引事業計画」に基づいて設備投資を行なった場合、その投資額に対して節税効果を得ることができます。具体的には、取得した設備などの価額に対し、最大で50%の特別償却(利益から経費として一括計上すること)、あるいは最大で6%の税額控除(支払う税金から直接差し引くこと)のいずれかを選択して、適用することが可能です。
通常の設備投資減税と比較しても、建物や構築物が対象に含まれる点や控除率の高さにおいて非常に手厚い内容となっており、特に本社機能の地方移転や、地方工場の大規模な増設などを検討している企業にとっては、キャッシュフローを改善するチャンスとなります。
地域未来投資促進税制で対象となるのは、地域経済牽引事業を実施するために必要とされる資産です。機械装置や器具備品はもちろん、オフィスや工場などの建物、さらには建物附属設備や構築物なども含まれます。ただし、どのような投資でも認められるわけではなく、2025年度の税制改正により、設備の取得価額の合計額が1億円以上となるものなど一定の要件を満たすものに限られます。また、減税の対象となる取得価額には上限があり、80億円が限度額として設定されています。
つまり、ある程度まとまった規模の先行投資を行う企業をターゲットとした制度設計になっているということです。
まず企業は、進出または事業を行う予定の都道府県知事に対し、「地域経済牽引事業計画」を提出し、その承認を受ける必要があります。計画には、その事業が地域の特性(たとえば、その土地特有の観光資源、技術力、農産物など)を活かしたものであり、高い付加価値を創出するものであること、そして地域の取引先への経済波及効果が見込めることなどを盛り込みます。
次の段階として、国(主務大臣)に対して課税特例の要件を満たしているかどうかの確認を求めます。実際の申請先は、事業所を管轄する地方経済産業局などが窓口となります。この「都道府県の承認」と「国の確認」を済ませ、実際に計画に基づいた設備投資を行うことで、確定申告時に減税措置を適用することができるようになります。
地方での成長を目指す企業にとっては、非常にメリットのある制度ですが、いくつか注意点もあります。税制措置を受けるためには、必ず「国の確認書」の交付を受けた後に、設備の取得(引き渡し)を行わなければなりません。計画の承認申請中であったとしても、確認書が手元に届く前に設備を取得してしまうと、その設備は減税の対象外となってしまいます。工事の着工や発注のタイミングについては、余裕を持ったスケジュール管理と、税理士や関係省庁との密な連携が求められます。
また、対象となる資産は、新品の設備や建物に限られます。中古の機械装置や、居抜き物件などの既存建物(中古建物)を取得して事業を行う場合は、この税制の対象にはなりません。あくまで新たな投資によって地域に新しい価値を生み出すことが、制度の目的とされているためです。
地域未来投資促進税制は、地方での事業拡大を狙う企業にとって、設備投資の負担を下げる制度といえるでしょう。最大50%の特別償却や税額控除といったメリットは、初期投資の回収期間を早め、次の成長への原資を確保することに直結します。また、単なる節税対策としてだけでなく、地域社会と共に発展を目指す企業の姿勢を示すことにもつながり、ESG経営の観点からも注目すべき制度といえます。
適用期間は2028年3月31日までとなっており、要件をクリアするためには、緻密な計画の作成が大きなポイントになります。もし、この期間中に制度の適用を受けるのであれば、まずは制度に詳しい税理士などの専門家に相談してみることをおすすめします。
※本記事の記載内容は、2026年5月現在の法令・情報等に基づいています。
地震や台風、盗難や横領といった災難によって資産を失った際に、経済的な負担を少しでも軽くするための所得控除があります。それが『雑損控除』です。所得税や住民税の負担を軽減できるのが雑損控除ですが、詳細や適用条件を知らないままだと、本来受けられるはずの控除を受けることができません。また、雑損控除を受けるには確定申告を行う必要があります。
雑損控除の基本的な仕組みや対象となる資産、具体的な計算方法などを把握しておきましょう。

『雑損控除』は、災害や盗難などによって、生活に欠かせない資産に損害を受けた場合に適用される所得控除の一つです。
所得控除とは、税金を計算する基礎となる「所得金額」から一定額を差し引く仕組みのことで、結果として支払うべき所得税や住民税を抑えることができます。
まず、この控除の対象となる資産には決まりがあります。大前提として、損害を受けた資産の所有者が、納税者本人、または納税者と生計を一にする配偶者や親族(その年の総所得金額等が58万円以下の人)である必要があります。対象となるのは、自宅や家具、家電、通勤用の自動車など、日常生活に通常必要な資産です。逆に、事業用の在庫や固定資産、あるいは「生活に通常必要でない資産」は雑損控除の対象外となります。
たとえば、別荘や趣味・娯楽のために所有している不動産、1個または1組の価格が30万円を超える貴金属、書画、骨董品などは対象に含まれません。これらの贅沢品や事業用資産については、別の税務処理が必要になるため注意が必要です。
さらに、雑損控除が適用されるには、損害の原因が特定の事由に該当しなければなりません。具体的には、震災、風水害、冷害、雪害、落雷といった自然現象による災害や、火災、火薬類の爆発といった人為的な異常災害があげられます。また、シロアリなどの害虫による異常な侵食(生物による災害)も対象に含まれます。
その他、犯罪被害についても、盗難や横領による損害であれば控除の対象となります。注意したいのは、詐欺や恐喝による被害は雑損控除の対象外であるという点です。法律上、詐欺はたとえ騙された結果であっても、「自分の意思で財産を交付した」という側面があるため、強制的に奪われる盗難などとは区別されています。このように、何が原因で資産を失ったかによって、税務上の扱いが変わることを理解しておきましょう。
雑損控除として差し引ける金額は、次の(1)と(2)のうち、いずれか多い方の金額となります。計算にあたっては、純粋な損害額だけでなく、割れたガラスの片付けや土砂の撤去といった「災害等関連支出」も含めることができます。
(1)(損害金額+災害等関連支出-保険金等の受取額)-(総所得金額等)×10%
(2)(災害関連支出-保険金等の受取額)-5万円
たとえば、総所得金額が500万円の個人が、台風で自宅に150万円の損害を受け、片付けに20万円を支出し、保険金を20万円受け取った場合を考えてみましょう。
(1)の計算では(150万+20万-20万)-(500万×10%)=100万円となります。
(2)では(20万-20万)-5万円=-5万円となり、金額は発生しません。
この場合、金額が多い方の「100万円」が所得控除として適用されます。その年の所得から控除しきれなかった雑損控除の金額は、翌年以降3年間にわたって繰り越して控除することができます。
雑損控除を適用するためには、個人事業主はもちろん、給与所得者であっても必ず確定申告を行う必要があります。会社で行う年末調整では、この控除を処理することができません。
会社の経理担当者は、従業員から「災害の被害を受けたので、雑損控除を受けたい」と相談された場合、会社側で控除を反映できない点と、その従業員自身で確定申告を行う必要がある点を説明しましょう。
確定申告では給与所得の証明として、「源泉徴収票」が必要になるため、年末調整後に通常どおり源泉徴収票を発行することが、会社側の実務上の対応になります。
ちなみに、法人には「雑損控除」という名称の所得控除は存在しませんが、災害によって生じた固定資産の滅失損などは「災害損失金」として損金の額に算入することができます。法人の場合は所得控除ではなく、経費(損失)として利益から差し引くことで、法人税負担を軽減させる形になります。
雑損控除は、個人が災難に遭った際に利用できる所得控除です。もし自身や家族が被害に遭った際には、損害状況を記録し、修理代などの領収書を保管し、翌年の確定申告時期に忘れずに手続きを行いましょう。また、還付申告となる場合は、申告期限から5年間は雑損控除の申告をすることができます。制度の複雑な部分については、適用要件や手続きの流れをあらかじめ整理しておく必要があります。
※本記事の記載内容は、2026年5月現在の法令・情報等に基づいています。
会社経営における「経費精算」とは、従業員が一時的に立て替えた費用を、後から会社側が補填する仕組みのことです。しかし企業によっては、従業員が架空の領収書を提出したり、私的な支払いを仕事の経費に見せかけたりといった不正が行われているケースもあります。経費精算における不正は、一件当たりの金額が少額であっても、積み重なれば経営を圧迫する大きな損失となり、さらには会社の脱税に当たると判断されてしまうリスクもあります。
経費不正の実例を紹介しながら、その影響や防衛策などについて深掘りしていきます。

従業員の経費精算における不正は、さまざまなパターンがあります。代表的な事例としてあげられるのが、「交通費の水増し請求」です。実際には安価なルートを利用した、あるいは定期券の区間内であるにもかかわらず、最も高い運賃を申請するといった行為は、多くの企業で常態化しやすい不正の一つです。
また、私的な飲食費や日用品の購入を「会議費」や「消耗品費」として計上するケースも目立ちます。友人との食事を取引先との会食と偽ったり、自宅で使う事務用品を会社用として購入したりする「私的利用の経費計上」は、領収書さえあれば一見正当な経費に見えてしまうため、内容を精査しなければ見抜くことが困難です。
さらに、悪質なケースでは、白紙の領収書を手に入れて自分で金額を書き込んだり、提出済みの領収書を画像編集ソフトで加工し、日付や金額を改ざんしたりする「領収書の偽造・変造」が行われることもあります。偽造や変造は、特に被害額が大きくなりがちです。過去には社団法人の専務理事が飲食代の領収書を偽造して、勤務先から数百万円を騙し取って逮捕された事件もありました。
こうした不正が発覚した際、会社が被るダメージは単なる金銭的な損失だけに留まりません。特に税務上のリスクは極めて深刻で、本来経費として認められない私的な支出を経費計上していた場合、税務調査において「経費の否認」を受けることになります。悪質だと判断されれば、隠蔽や仮装を伴う「脱税」とみなされ、重加算税などの重いペナルティが課せられる可能性があります。税務署から「管理体制がずさんな会社」というレッテルを貼られれば、その後の調査が厳しくなることも避けられません。
また、不正を行なった従業員の行為は、刑法上の「業務上横領罪」や「詐欺罪」、あるいは領収書を偽造していれば「私文書偽造等罪」に該当する可能性もあります。犯罪行為が行われていたことが明るみになれば、企業のブランド価値を落とすことにもなりますし、こうした不正を放置していると、真面目に働いているほかの従業員の士気を著しく低下させます。
では、こうした不正を防ぐために、会社側はどのような対策を講じるべきでしょうか。まず取り組むべきは、社内ルールの明確化と徹底した周知です。どのような支出が経費として認められ、どのような手続きが必要なのかを記した「経費精算規定」を整備し、あいまいな解釈の余地をなくすことが重要です。こうした規定がないと、「これくらいは大丈夫だろう」という従業員の自己正当化を許してしまいます。また、定期的な研修などを通じて、不正が会社や本人にどのような不利益をもたらすかを教育し続けることも大切です。
一方、体制面では、チェックの「多層化」が有効です。申請者本人と経理担当者だけでなく、必ず直属の上司が内容を確認するフローを構築しましょう。現場をよく知る上司が「この時間にこの場所で会食があったのか」を確認するだけで、抑止力は格段に高まります。
さらに、ICカードとの連携による交通費の自動計算や、スマートフォンのカメラで撮影した領収書の自動読み取り(OCR機能)の活用など、「経費精算システム」の導入によって、手入力によるミスや意図的な改ざんの余地を物理的に排除することができます。システム上で過去のデータと照合し、重複申請などを自動で検知する機能は、チェック作業の負担を軽減しながら精度を高めてくれます。
ほかにも、特定の人物が長期間同じポジションで精算業務を担当していると、癒着や慣れが生じやすいため、定期的な配置換えや担当のローテーションを行うことも、健全な牽制機能を維持するポイントの一つといえます。
経費精算の不正を防ぐためには、第一に不正を起こさせない仕組みづくりが欠かせません。厳格なルールと最新のシステム、透明性を担保する仕組みをバランスよく組み合わせることで、従業員が本来の業務に安心して打ち込める経営基盤を築くことができるはずです。もし、現在の精算フローに不安がある場合は、専門家とも相談しながら、規定の見直しや、システムの導入などを検討してみることをおすすめします。
※本記事の記載内容は、2026年3月現在の法令・情報等に基づいています。
インバウンド需要を背景に、繁華街などで多くの外国人観光客を目にします。売店やサービス業を営む事業者にとって、外国人観光客を相手にした免税販売は売上を伸ばすよい機会です。
この免税販売を行ううえで重要なのが、2026年11月に「購入時免税方式」から移行する『リファンド方式』という新しい免税制度です。現在はレジで消費税を差し引く形が主流ですが、新制度では一度消費税を預かり、出国時に払い戻す仕組みに変わります。
店舗側の不正転売リスクの軽減や、販売機会の拡大にもつながる『リファンド方式』の仕組みとポイントを解説します。

これまで日本の免税制度は、外国人観光客が店舗で商品を購入する際、その場で消費税を免除した価格(税抜価格)で販売する『即時免税方式』が採用されてきました。しかし、2026年11月1日からは、令和7年度税制改正に基づき、この仕組みが根本から見直されます。新しく導入される『リファンド方式』では、旅行者はまず店舗で消費税込の価格を支払い、その後、出国時に税関で持ち出し確認を受けることで、事後的に消費税相当額の還付手続きが行われます。
この変更の背景には、免税制度を悪用した不正転売の問題がありました。本来、免税品は海外へ持ち出すことが条件ですが、国内で転売して利益を得ようとするケースが後を絶ちませんでした。現在の制度では、万一購入者が不正を行なった場合、免税店側が後から不足分の税金を徴収されるといったリスクがありました。リファンド方式へ移行することで、こうした不正を入口で遮断し、事業者が不利益を被らない健全な環境を整える狙いがあります。
また、新制度では、これまで義務づけられていた消耗品の「特殊包装(開封防止のビニール袋など)」が不要になります。さらに、消耗品に設けられている50万円の購入上限も廃止される方針です。これにより、高級化粧品や酒類などのまとめ買いがよりスムーズになり、高単価な商品の販売機会が大きく広がることが期待されています。
制度の変更に伴い、現場のオペレーションも変わることになります。旧制度においては、店舗のスタッフが「この人は本当に免税対象者か」「転売目的ではないか」といった最終的な判断を迫られ、もし判断を誤れば、追徴課税を受けるリスクを常に抱えていました。しかし、リファンド方式で免税の可否を最終的に判断するのは空港などの「税関」になります。店舗側は、あくまで「購入記録をシステムで送信する」という役割に徹することができるため、リスクが軽減されることになります。
具体的には、店舗での販売時は税込価格で決済を行い、パスポート情報などを国税庁のシステムに送信するというシンプルな流れになります。旅行者が購入から90日以内に出国し、税関で確認を受けることで還付が行われるため、店舗がその場で複雑な免税書類を作成したり、返金作業を行なったりする必要は原則としてありません。
ただし、まったく何も準備しなくてよいわけではありません。販売価格の表示を「税込」で統一する必要があるほか、高額な商品については引き続き詳細な情報登録が求められる可能性があります。
新たに免税販売を始めようと考えている事業者にとっても、このタイミングは大きな機会といえるでしょう。免税販売を開始するためには、まず所轄の税務署に対して「輸出物品販売場」の許可申請を行う必要があります。申請自体はそれほど複雑なものではありませんが、購入記録を電子的に送信するための環境整備が必須条件となります。新制度が始まれば、前述の通り消耗品の梱包の手間などがなくなるため、小規模な店舗であっても導入のハードルは下がります。
外国人観光客にとって、免税は日本でのショッピングを楽しむための大きな動機になります。そして、免税への対応は、SNSや口コミを通じて集客力を高める有力な施策になります。
2026年11月のリファンド方式への切り替えをルールの変更ととらえるのではなく、オペレーションを効率化し、より積極的に海外からの顧客を呼び込むための好機と考えてみてはいかがでしょうか。新規の許可申請について、具体的に進める場合は、申請要件や必要なシステム対応を事前に確認しておくことが重要です。
※本記事の記載内容は、2026年4月現在の法令・情報等に基づいています。
多くの中小企業にとって、所得の一部に低い税率が適用される「軽減税率の特例」は、手元に資金を残すためにも有効な制度といえます。
この特例はもともと期限のある時限措置でしたが、昨今の物価高騰や賃上げといった厳しい経営環境を考慮し、2025年度の税制改正では、さらに2年間の延長が決定しました。ただし、所得が極めて高い企業や、特定の税務制度を利用している企業に対しては、事実上の増税となる見直しも盛り込まれています。
特例の基本をおさらいしながら、どのような企業が改正で影響を受けるのか、確認していきましょう。

日本の法人税率は、原則として一律23.2%と定められています。しかし、資本金1億円以下など一定の条件を満たす「中小法人」については、経営基盤が脆いことを考慮し、税負担を軽くする仕組みが用意されています。具体的には、年間の所得のうち800万円以下の部分については、19%の税率でよいとされています。
さらに、リーマン・ショック後の景気対策として導入されたのが「法人税の軽減税率の特例」です。これにより、本来19%であるはずの税率が、さらに低い15%へと引き下げられてきました。
この4%の税率の差は、中小企業にとって設備投資や雇用の維持、あるいは内部留保の確保のために非常に大きなメリットとなってきました。
この特例はこれまでも期限が来るたびに延長されてきましたが、2025年度の税制改正により、適用期限が「2027(令和9)年3月31日までに開始する事業年度」まで、さらに2年間延長されることとなりました。
特例が延長された背景には、中小企業を取り巻く現在の厳しい経済状況があります。当初はリーマン・ショックという経済危機への対策として始まったものでしたが、現在は原材料費やエネルギー価格の高騰、人手不足を解消するための賃上げ対応など、中小企業はかつてないコスト増に直面しています。
こうした状況下で、本来の法人税率に戻ってしまうと、中小企業の活力を削ぎかねません。そこで、企業が賃上げのための原資を確保し、持続的な成長を遂げられるよう、特例の税率を維持することで経営の下支えを継続しようという狙いがあります。
2025年度の税制改正によって、特例がすべての中小企業に適用されるわけではなくなりました。中小企業のなかでも、特に稼ぐ力が強い企業に対しては、相応の負担を求めています。その基準となるのが、年間の所得金額が「10億円」というラインです。
今回の見直しにより、所得の金額が年10億円を超える事業年度については、これまで15%だった軽減税率が17%に引き上げられることになりました。たとえ形式上は資本金が1億円以下の中小法人であったとしても、年間10億円超の利益を上げているのであれば、軽減税率は17%になります。
さらに、今回の改正で注意が必要なのが「通算法人」に対する扱いです。通算法人とは、企業グループ全体で損益を通算して税金を計算する「グループ通算制度」を適用している法人のことを指します。
これまでは、親会社が資本金1億円以下であれば、グループ内の子会社も軽減税率の適用を受けることができました。しかし、今回の改正では、グループ通算制度を利用している法人は、所得の大小にかかわらず、15%や17%といった軽減税率の特例対象から除外されることになりました。その結果、これらの法人の800万円以下の所得に対しては、19%の税率が適用されることになります。
グループ経営を行なっている企業にとっては、税務メリットが減少することになるため、あらためて自社のグループ体制や、現在の税務制度が最適であるかどうかを再点検する必要が出てきます。2025年度の法人税制の改正は、多くの中小企業にとって「現状維持」である一方で、一部の企業にとっては「負担増」となる二面性を持っています。
年間所得が10億円を超えるような成長著しい企業や、グループ通算制度を活用している企業は、今後の納税額に直接的な影響が出ることを理解しておく必要があります。
自社がどの区分に該当し、今後の税負担がどう変化するのかを早めに把握しておくことが、安定した経営を続けるためのカギになります。延長期間である2年間を猶予ととらえるのではなく、さらなる成長に向けた体力づくりの期間として活用していきましょう。税理士などの専門家とも連携しながら、将来の成長を見据えた税務・会計体制へと整えていくことが重要です。
財務担当者の重要な業務の一つが、「棚卸資産」の管理です。
一般的には「在庫」とも呼ばれる「棚卸資産」ですが、税務会計上はもう少し広い意味を持ち、会社の利益を左右する大切な要素として扱われます。仕入れた商品も売れるまでは「原価」にならず、会社の「資産」として手元に残り続けます。この資産が原価に変わるタイミングとルールが、決算書の数字や納める税額に影響を与えます。
会社を運営するうえで押さえておきたい棚卸資産の基礎と、評価方法について解説します。

棚卸資産は、将来的に販売することを目的として一時的に保有している資産のことです。法人税法上は、仕入れた「商品」や自社で完成させた「製品」はもちろん、製造過程にある「半製品」や「仕掛品」も棚卸資産です。半製品はそれ自体で販売可能な状態のもの、仕掛品はまだ加工の途中で、そのままでは売れないものを指します。さらに、製品をつくるための「主要原材料」や、接着剤やネジなどの「補助原材料」、パンフレットや伝票、切手、事務用消耗品などの「貯蔵品」なども、棚卸資産として扱われます。
これらは、会社がキャッシュを支払って手に入れた資産が、一時的にモノの姿になって倉庫に眠っている、いわば「形を変えた現金」だといえます。この棚卸資産が販売されて初めて、会計上は「売上原価」という原価になり、会社の利益を計算する際のマイナス要素としてカウントされます。
そして、多くの企業では、決算前に保有している棚卸資産の実数を数えて、帳簿上の数と差異がないか照合する「棚卸」を行います。なぜ手間や時間をかけて棚卸を行い、棚卸資産を正確に記録するのでしょうか。その最大の理由は、棚卸資産の金額が会社の利益に直結するからです。
会社の売上総利益を計算する式は「売上-売上原価」ですが、この売上原価は「その期に売れた分だけの仕入代金」でなければなりません。つまり、「期首にあった在庫+今期仕入れた額-期末に残った在庫」という計算式で算出されます。
ここで期末の在庫を間違えて、本来よりも少なく見積もってしまうと、その分だけ「原価(売上原価)」が膨らみ、利益が少なく見えてしまいます。逆に期末の在庫を多く見積もりすぎると、当期の原価計上が少なくなり利益が余計に計上され、税負担が増えてしまうことになります。
このように、棚卸資産は損益計算を正しく行う役割を果たしているため、税務署も非常に厳しくチェックする項目となっています。正確な棚卸は、自社の正確な収益力を把握するのはもちろん、適正な納税のためにも欠かせない作業といえます。
棚卸資産の実数を数えたら、次はその価値を算定しなければいけません。評価方法には、大きく分けて「原価法」と「低価法」の2つがあります。
「原価法」は、仕入れた時の価格をベースに評価する方法で、さらに以下の6つの計算手法に分かれます。
最終仕入原価法:期末に最も近い時期に仕入れた単価をすべての在庫に適用する方法で、税法上の「法定評価方法(届け出がない場合に適用される方法)」となっています。
個別法:一つひとつの商品に対して、実際に仕入れたときの価格を紐付ける方法で、宝石や不動産など、個別性が高いものに適しています。
先入先出法:古いものから順に売れていくと仮定して計算する方法で、実際のモノの流れに近いという特徴があります。
総平均法:期中の仕入総額を総数量で割って平均単価を出す方法で、計算は楽ですが、期末にならないと単価が確定しません。
移動平均法:仕入れるたびにその都度平均単価を出し直す方法で、常に最新の原価が把握できるものの、計算の手間がかかります。
売価還元法:売価に一定の原価率を掛けて算出する方法で、取扱商品が多岐にわたる小売業などで採用されています。
一方、「低価法」は、原価法で出した価格と、期末時点の時価(売り値)を比べ、どちらか「低い方」を採用する方法です。流行遅れや劣化で価値が下がった場合に、早めに損失を計上できるというメリットがあります。
こうした棚卸資産の評価で最も注意すべきは、一度決めた評価方法は「継続して使い続ける」ということです。利益が出そうだからといって、勝手に計算方法を変えることはできません。評価方法を変更したい場合は、新しい事業年度が始まる前日までに、税務署へ届出書を提出する必要があります。
棚卸資産の評価一つで、決算書の内容が変わり、納める税金の額も変動します。「自社に最適な評価方法」や「棚卸のやり方」などを定期的に見直すことは、健全な財務体質を築くための礎になります。在庫管理をただの事務作業と考えるのではなく、経営戦略の重要な一部としてとらえ直してみましょう。
2023年10月にスタートしたインボイス制度には、制度の定着などを目的とした負担軽減措置が設けられていました。売り手側の負担を軽減する「2割特例」と、買い手側の「8割控除」は、本来であれば2026年秋に終了、あるいは縮小される予定でした。
しかし、「2026年度与党税制改正大綱」では、これらの措置が改変されたうえで延長されることが公表されました。
措置が打ち切られるのではなく、期間が延びたことは、多くの事業者にとって朗報といえそうです。
事業者であれば知っておきたい改変の中身や延長の期間などを説明します。

インボイス制度(適格請求書保存方式)では、それまで免税事業者だった多くの個人事業主やフリーランス、小規模法人が、取引先からの要請やビジネス上の判断によって、課税事業者へ転換しました。
消費税の納税義務が新たに生じることは、資金繰りに直結する大きな負担となります。そのため、制度導入にあたっては、急激な環境変化による経済的ダメージを緩和するための「経過措置」がいくつか用意されました。
その一つである「2割特例」は、免税事業者がインボイス登録を行なって課税事業者になった場合、消費税の納税について、売上税額の2割を納めるだけでよいという売り手側の特例です。通常、消費税の計算は、売上で受け取った税額から仕入れで支払った税額を差し引く「本則課税」や、業種ごとに定められた「みなし仕入率」を用いる「簡易課税」で行いますが、2割特例はこれらよりも計算がシンプルで、多くのケースで納税額を低く抑えることができました。
また、買い手側(課税事業者)に対しても、免税事業者からの仕入れについて、その税額相当額の8割を控除できる「8割控除」の措置が講じられていました。インボイス制度の導入後、課税事業者は免税事業者からの仕入れについては、適格請求書が発行されないため、支払った消費税額が控除対象外となりますが、一定の期間までは、仕入税額相当額の8割を仕入の税額として控除できるというものです。
本来であれば、「2割特例」も「8割控除」も時限的な措置で、予定では2026年の秋に大きな節目を迎えるはずでした。
当初のスケジュールでは、2割特例の適用期限は2023年10月1日から2026年9月30日を含む課税期間までとされていました。つまり、2026年10月1日からは、特例を適用してきた事業者は「簡易課税」や「本則課税」へと移行し、税負担が増加することが予想されていました。また、買い手側の8割控除についても、2026年10月1日からは控除率が5割へと縮小される予定であり、免税事業者との取引継続を危ぶむ声もあがっていました。
こうした状況のなか、「2026年度(令和8年度)税制改正大綱」において、近年の物価高騰や小規模事業者の経営環境の厳しさを考慮し、2割特例の廃止や8割控除の縮小を見送ることが示されました。
では、具体的に負担軽減措置はどうなるのでしょうか。
今回の改正の目玉の一つは、個人事業者に限り、2割特例が割合を「3割」に変更されたうえで、さらに2年間延長される点です。これにより、2027年および2028年に含まれる各課税期間は、売上にかかる消費税の3割を納付する「3割特例」として運用されることになります。対象となるのは、これまでと同様に免税事業者がインボイス登録を行い課税事業者となっており、かつ基準期間(前々年)の課税売上高が1,000万円以下の個人事業主です。すでにインボイス登録をしている事業者はもちろん、これから新たに登録する事業者も対象に含まれます。
一方、「8割控除」についても、変更が行われました。税制改正大綱では、当初予定されていた2026年10月からの「5割への縮小」を、より細かな段階を設けるかたちに変更する方針が示されています。
具体的には、現在の「8割控除」が2026年9月30日で終了した後、同年10月1日からは「7割控除」として2年間継続される予定です。その後、2028年10月1日から2年間が「5割控除」、2030年10月1日からの1年間が「3割控除」と、数年かけて段階的に引き下げられることになります。最終的に、免税事業者からの仕入れについてまったく控除ができなくなるのは2031年10月1日以降になるというスケジュールです。
この変更は、企業間の取引関係においても大きな意味を持ちます。買い手側にとっては、コスト増のペースが緩やかになるため、免税事業者の取引先に対して性急な値下げ要求や取引停止を迫る必要性が低くなります。売り手である免税事業者にとっても、インボイス登録を検討したり、価格転嫁の交渉をしたりするための十分な準備期間が確保されたことになります。
ただし、今回の延長もあくまで時限的なものだと理解して、将来的な事業体制を整備しておくことが重要になります。たとえば、2割特例を受けている個人事業主であれば、消費税の納税額が3割に上がることでキャッシュフローがどの程度圧迫されるのかを事前に試算しておく必要があります。特例が終了する時期を理解したうえで、簡易課税制度の届出なども検討しておきましょう。
※本記事の記載内容は、2026年4月現在の法令・情報等に基づいています。
企業が外部の事業者に業務を依頼する際に発生するのが「外注費」です。
外注費は、適切に処理することで会社の税負担を軽減できる一方、税務調査では必ずといってよいほどチェックされる項目の一つです。
なぜなら、外注費は給与と性質が似ているため、混同しやすいものもあるからです。
もし、この外注費が税務調査で給与だと認定されてしまったら、予期せぬ追徴課税が発生するかもしれません。
給与とは税法上の取り扱いが異なる「外注費」について、税務調査で否認されないための対策を解説します。

「外注費」とは、社外の独立した事業者(外注先)に特定の業務を依頼し、その成果やサービスに対して支払う対価のことです。
たとえば、Webサイト制作や専門的なコンサルティングなど、自社で対応できない専門業務を外部に委託する際に発生する費用が「外注費」に該当します。
「外注費」は、原則として源泉徴収義務(個人に対する一定のものは源泉徴収義務あり)や社会保険料の負担が生じませんし、取引先がインボイス登録事業者の場合は、消費税の仕入れ税額控除の対象にもなります。
しかし、税務調査において、この「外注費」が給与に認定されてしまうと、源泉所得税や社会保険料の徴収漏れや、消費税の仕入れ税額控除が認められないことになります。過去には、元従業員で現在は外注先として仕事を引き受けている人物に支払った金銭が、「外注費」と「給与」のどちらに該当するのか争われた裁判がありました。この裁判において、裁判所は、この人物の勤務実態は従業員であったときと変わらないため支払った金銭は給与に該当し、仕入税額控除の対象にはならないと判決を下しています。
そもそも給与は、会社と雇用関係にある従業員に対し、会社の指揮命令下で労働を提供した対価として支払われます。そこには労働時間や場所の拘束があり、会社は源泉徴収や社会保険料の負担の義務を負います。
一方、「外注費」は、独立した事業者との「請負契約」や「業務委託契約」に基づき、特定の成果物や役務の提供に対して支払われます。外注先は会社の指揮命令を受けず、自己の裁量で業務を進めるため、企業側による労働時間や場所の拘束は原則としてありません。
税法上は大きく異なる「外注費」と「給与」ですが、税務調査では「外注費」が「給与」とみなされることがあります。
税務署が「外注費」を「給与」と判断する際、着目するのは業務の『実態』です。
たとえば、会社が外注先に対して業務の進め方や具体的な作業内容を細かく管理しており、まるで従業員に指示を出すかのような状況であれば、給与と判断されやすくなります。また、会社のオフィスへの出社を義務づけたり、特定の勤務時間を指定したりするなど、従業員と同様に場所や時間を拘束している場合も、給与と判断される可能性が高くなります。その会社の従業員であれば、会社の指揮監督下にありますが、外注先は指揮監督下にないのが原則です。
ほかにも、業務に必要な道具や材料、交通費などの諸経費を会社側が負担している場合も「外注費」が否認される可能性があります。通常、外注先は自己の責任でこれらの費用を負担する必要があるからです。
また、報酬形態にも注意が必要です。毎月決まった額が固定で支払われ、欠勤による控除などが行われている場合は、給与と判断されるかもしれません。成果物やプロジェクト単位での報酬ではなく、月給のような報酬形態は避けるようにしましょう。
こうした要素は単独で判断されるのではなく、総合的に見て判断されます。また、判断される際は契約書の文言だけでなく、実際の業務がどのように運用されているかが重要になります。一つでも該当したからといって即座に否認されるわけではありませんが、複数の要素が重なると給与と認定される可能性が高まるので注意しましょう。
税務調査で「外注費」を「給与」と認定されないためには、日頃からの予防策が重要です。まず、外注先との取引においては、請負契約や業務委託契約を締結し、その内容を明確に記載しましょう。報酬も月額固定ではなく、成果物ごとやプロジェクト単位で設定するのが理想です。契約書の内容が実際の業務運用と一致していることが何よりも大切です。
外注先から発行される請求書は、重要な証拠になります。正式な形式で発行され、内容が具体的であるかを確認し、ほかの見積書や納品書などとあわせて適切に保管しましょう。
もし、税務調査で「外注費」が否認されてしまうと、多額の消費税、源泉所得税、社会保険料の追徴だけでなく、不納付加算税や延滞税といった厳しいペナルティが課される可能性もあります。このような事態を避けるためにも、契約書の内容と実際の業務運用が外注の実態に合致しているかを意識し、疑わしい点があればすぐに改善し、「外注費」と「給与」をきちんと区別するようにしましょう。
※本記事の記載内容は、2025年9月現在の法令・情報等に基づいています。