『副業300万円問題』で騒然! 副業収入は事業所得にできるのか  2022-12-28

  

   『副業300万円問題』という言葉が巷を騒然とさせました。

300万円以下の副業収入は、『事業所得』ではなく、『雑所得』とするという

国税庁の通達改正案に関して意見を公募したところ、意見が殺到したという一件です。

結果的に、改正案は大幅に修正され、事業所得と認められるかどうかは、

その所得を得るための活動が、社会通念上事業と称するに至る程度で行っているか

どうかで判定する。

また、その所得の取引を記録した帳簿書類の保存がない場合(一定の場合を除く)には、

雑所得に該当することに留意することになりました。

以前から見解の分かれていた、副業が『事業所得』か『雑所得』のどちらなのかについて、

ある程度明確になったといえます。

今回は、意見の公募を経て見えてきた、副業所得の申告方法について解説します。


目的は、副業による所得を正しく申告してもらうこと

 そもそも、今回の改正案の目的は、副業による所得を正しく申告してもらうことでした。

副業をした場合、収入の大小にかかわらず確定申告が必要です。

副業についても、開業届を提出して青色申告事業者となり、その収入を事業所得として申告すると、

青色申告特別控除を受けることができます。

控除額は以下の3種類です。

●55万円

●10万円

●65万円

さらに、事業所得が赤字になれば、給与所得と損益通算をして所得総額を減らし、

所得税を還付してもらえることもあります。

また、3年間にわたり赤字の繰越も可能です。

このような有利さに加え、コロナ禍では、給付金の要件が事業所得であることに限られていたため、

以前よりも副業収入を事業所得として申告する人が増加しました。

今回の通達改正案は、そうした状況に対し、国税局が一旦、意見を募集した形になります。


事業所得と雑所得の線引きは以前からあった

 この件について考えるにあたり、まず『事業』とは何かを理解する必要があります。

事業とは、いわゆる『独立・継続・反復して行われる仕事』です。

趣味でつくったモノでたまたまお金を得ても、事業とはいいません。

さらに『営利性・有償性を有し、かつ、反復継続して業務を遂行する意思と社会的地位とが客観的に認められるもの』

という国税不服裁判所の裁決事例があります。

この裁判のコメントにはまた、『自己の計算と危険においてする企画遂行性の有無、

その者の精神的肉体的労務の投入の有無、人的・物的設備の有無、その者の職業・経験及び社会的地位等を

総合的に勘案して判断すべき』という文言があります。

つまり、一回副業をした程度では『反復』はしておらず、商品を仕入れたり、経費をかけたり、

労力を費やしたといったことが、事業であるかどうかの判断材料となります。

ほかに、副業やクラウドソーシングでよくあるのが『原稿を執筆したが、取引先名が分からない』というものです。

こちらも、もし事業について調査されたとき、証拠(反証)となるもの(請求書や領収書、支払調書など)がない場合は、

事業所得として申告することができません。

このような場合は、はじめから『雑所得』として申告することになります。


取り消された300万円の基準とは?

 公募に対しては、多くの意見が殺到しました。

主な内容は

●『主たる所得』の判断基準がわからない

●会社を退職せず起業しているビジネスマンはどうすればよいか

●『反証』の範囲がわかりにくい

●政府の『副業推進』と逆行している などです。

国税庁の出した改正案は、当初『副業の年間収入が300万円以下なら雑所得』でした。

ただ、修正により『300万円』という記述はなくなりました。

しかし、勘違いしてはならないのは、完全になくなったわけではなく『記述が消えた』だけであるということです。

なぜなら、新しい改正通達案には注釈があり、

『なお、その所得に係る取引を記録した帳簿書類の保存がない場合(その所得に係る収入金額が300万円を超え、

かつ、事業所得と認められる事実がある場合を除く)には、業務に係る雑所得(資産(山林を除く))の譲渡から生ずる

所得については、譲渡所得又はその他雑所得)に該当することに留意する』という記述が残されているからです。

ほかにも変更された部分があり、『帳簿書類の保存』についても言及しています。


副業収入を事業所得で申告するメリットとは

開業届を出して青色申告をしている人が事業所得で申告した場合、雑所得にはない、4つの制度が適用できます。

(1)青色申告特別控除が適用できる

(2)所得が赤字の場合、ほかの所得との損益通算ができる

(3)青色申告の『3年間繰越控除』が適用できる

(4)少額減価償却資産の特例が適用できる

それぞれについて解説します。

(1)については、雑所得には青色申告特別控除という取り扱いが存在しません。

   そのためはじめから適用されることがない控除になります。

(2)については、損益通算できる所得は『不動産所得(一部出来ないものもあり)・事業所得・

   譲渡所得(譲渡するものにより一部除外あり)・山林所得』の4つです。

   雑所得には損益通算という考え方はありません。

(3)および(4)について、これは青色申告している場合に適用できる控除であり、雑所得は適用外です。

これらを比較するだけで、『事業所得で申告する方が有利』ということが想像できます。

しかし事業所得とするには『帳簿書類の保存』と所得税法第35条の注釈(業務に係る雑所得の例示)を

理解している必要があるでしょう。

副業収入がある人は、確定申告の時期が来てから慌てないよう、やり方についてよく調べておきましょう。

正しい申告ができるように、早めに準備しておくとよいでしょう。 

  

※本記事の記載内容は、2022年11月現在の法令・情報等に基づいています。

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不正会計が起こる原因と事例から防止策を考える  2022-12-07

   企業経営において、あってはならないことの一つが『不正会計』です。

不正会計とは財務諸表の意図的な改ざんや、

経営状態の適切な把握に必要な情報を隠ぺいする行為です。

改ざんや隠ぺいにより作成された財務諸表は、利害関係者(出資者やメインバンクを

はじめとする取引金融機関)からみれば信憑性の高い財務諸表とはいえません。

そのため不正会計が発覚すると、金融機関から融資を受けられなくなったり、

訴訟を受けることや刑事責任を問われたりする場合もあり、最悪の場合、企業の存続にかかわります。

そこで今回は、不正会計が起こる理由や不正会計の種類、事例を取り上げながら、防止方法を解説します。


不正会計はなぜ起きてしまうのか

 不正会計が起こる主な要因は次の3つがあると考えられます。

(1)過度のプレッシャー

(2)組織の不透明性(不正が起こりやすい環境)

(3)倫理観の欠如

達成不可能な過度なノルマを課すような組織風土や、ノルマが達成できなければ懲罰されるといった場合、

従業員はノルマ未達を隠すために不正を犯す可能性があります。

また、経理担当者が1名しかおらずチェック体制が甘いといった場合や、組織体制が不透明など、

自然に不正が起きやすい環境をつくり上げていることがあります。

さらに『第三者の目が届かないこと』や『第三者がいても何も指摘しない』といった状況でも、

組織全体の倫理観が欠如していきます。

組織全体で倫理観が欠如してしまった場合、不正を行っている本人は無自覚であることも珍しくありません。

このような組織では不正行為が常態化するおそれがあります。


不正防止対策はどのように考える?

 無自覚の不正も含め、どうすれば不正会計を防ぐことができるのでしょうか。

 防止策として以下の3つがあげられます。

(1)匿名の内部通報制度を拡充する

(2)調査部門の独立性の確立と権限の付与

(3)従業員へのコンプライアンス教育の実施

(1)の内部通報制度を機能させるうえで大切なのは、匿名性の確保と、そのことを社内で周知することです。

気づいた人が安心して報告できる体制をつくり、「気づいていながら報告できない」といった状況を

変えていくことが大切です。

また、調査部門の独立性も重要です。

周囲の影響を受けることなく、独自に判断できる権限を持たせる必要があります。

コンプライアンス教育は、社内で研修することをおすすめします。

たとえば入社時に新入社員教育の一環として組み込む、中核社員となってくる入社3年目で再研修を行うなど、

自社にあった方法で定期的に実施していきましょう。


不正会計の種類と事例

 不正会計の防止策を怠った場合、どのようなことが起こるのでしょうか。

 不正会計のなかで多いものは次の3つです。

(1)売り上げの水増し

(2)経費の先送り

(3)循環取引

(1)の売り上げの水増しとは、いわゆる粉飾決算です。

粉飾決算は見かけ上の利益が増え、納税額が増えるため、企業にとって損ではないかと考える人もいるかもしれません。

しかし実際は、粉飾決算によって出資額を増やしたり、株式を購入したりといった出資者などが増えるため、

企業は不正な利益を得ることになります。

粉飾決済の有名な事件を紹介しましょう。

近年の粉飾決算による事例といえば、2010年に発覚した半導体メーカー、

株式会社エフオーアイの『115億円粉飾決算』です。

結果的にわずか半年で上場廃止となり、破産しました。

(2)の経費の先送りとは、当期に計上しなければならない経費を来期にまわすことで、

経費分の利益を増加させ利益が上がったかのように見せる方法です。

本来、経費計上のタイミングは発生時です。

そのタイミングを遅らせることで経費分の利益が出ることになります。

具体的な事例としては、2015年のマツモトキヨシホールディングスの子会社イタヤマ・メディコが犯した

会計操作があります。

この不正会計により、親会社のマツモトキヨシホールディングスの株価が大幅下落しました。

(3)の循環取引とは、子会社を多く持つグループ会社で行われがちな不正取引です。

架空の商品やサービスによる架空の利益を計上し、グループ内に利益をプールすることを狙います。

循環といわれるのは、親会社と子会社間で仕入と売上を計上し、一般的な市場へ商品が流通することはなく

伝票上で商品が行ったり来たりするためです。

伝票上の操作だけで、架空の利益を計上できます。

具体的な事例は、2010年に発覚した『メルシャン』の循環取引です。

メルシャンは総額65億円を架空利益として計上し、証券取引所から管理銘柄に指定され、

市場の信頼を一気に失いました。

メルシャンは現在、キリンホールディングスの直接子会社となっています。


 上記の事例は大手企業ですが、中小企業であっても、利害関係者がいることに変わりはなく、

健全な経営をするためには適切な会計処理が必要です。

不正を未然に防ぐ方法は、必ずあります。

自社にあった方法を積極的に取り入れ、健全な経営を目指しましょう。 

  

※本記事の記載内容は、2022年11月現在の法令・情報等に基づいています。

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経営者のための退職金制度とは?  小規模企業共済制度で節税を実現  2022-12-02

  経営者が会社経営から退く際は、自ら退職金を準備する必要があります。

しかし業務に追われて、退職金の準備にまで手が回らないことも多いのではないで

しょうか。

そこで活用したいのが、小規模企業共済制度です。

制度の内容と、利用方法について説明します。


掛け金は500円単位で調整でき課税対象所得からの全額控除も

 小規模企業の経営者や役員のなかには「会社運営のために資金を残しておきたい」

「適切な退職金の額や準備方法を知らない」といった理由から、

自らの退職金を会社で準備していないケースが少なくありません。

しかし、経営から退いた後の生活を考えると、従業員と同様に退職金を受け取っておく要があります。

従業員には各会社の規定に沿った退職金が支払われますが、経営者は会社の資金状況を踏まえて

自らが退職金の額を決め、積み立てていくことがあります。

退職金の積立にはさまざまな方法があります。

そのなかでも経営者や役員自身が個人で積立をする『小規模企業共済』は節税効果が高く、

全国で160万人近くの経営者や役員、個人事業主が加入しています。

小規模企業共済制度は、小規模企業の経営者や役員、個人事業主に向けた退職金制度で、

国の機関である中小企業基盤整備機構(中小機構)が運営しています。

廃業や退任した経営者らの生活の安定や事業の再建などを支援する目的で1965年に誕生しました。

この制度の特徴は、高い節税効果です。小規模企業共済は確定申告の際に、掛け金の全額を課税対象所得から

控除することができます。

掛け金は500円単位で、最少額の千円から上限額の7万円まで自由に設定することが可能です。

たとえば毎月最大額の7万円の掛け金を積み立てるように設定すれば、年間で84万円を

課税対象所得から控除できることになります。

また、この掛け金は小規模企業共済への加入後も自由に増やしたり減らしたりできます。

最初は少額の掛け金からスタートして、徐々に掛け金を増やしていったり、

逆に、資金繰りが苦しければ、掛け金を減らしたりが可能です。

大切なのは、負担にならない金額の掛け金を毎月コツコツ積み立てていくことです。


加入してから一定期間を超えると掛け金が増えて戻ってくる

 積み立てた共済金に満額や満期などはなく、経営者や役員の退任時や、会社の廃業時等に

受け取ることになります。

共済金の受け取りは、一括か分割、もしくは一括と分割の併用を選ぶことができます。

一括の場合は退職所得ですが、分割の場合は公的年金等の雑所得扱いとなるため、税金を抑えることができます。

さらに掛け金は運用されるため、一定年数を超えると共済金(一定の請求事由を除く)が

これまでの掛け金の合計を超え、掛金納付月数と共済事由に応じた共済金を受け取ることができます。

ただし、小規模企業共済は経営者や役員の退職に備えた共済制度なので、途中で解約してしまうと元本割れを起こして、

掛け金の全額が戻ってこない場合があるため、注意が必要です。

また、加入していれば、いつでも低金利の貸付制度を利用できるのもメリットの一つです。

新規事業展開時や事業承継時等、資金繰りが困難なときなど、必要に応じて掛け金の範囲内で、

借り入れを行なうことができます。


 税負担が軽くなり、貸付制度も利用できる小規模企業共済は、後ろ盾のない中小企業の経営者等や個人事業主にとって

心強い制度です。

経営者や役員で退職金の準備をしていないのであれば、加入を検討してみてはいかがでしょうか。  

   

※本記事の記載内容は、2022年11月現在の法令・情報等に基づいています。

 

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個人や法人が使える主な『控除』とは    2022-11-17

   個人事業主や法人が確定申告を行う際には、所得税や法人税の計算上

いくつかの控除を受けることができます。

たとえば、所得税は課税所得金額に税率を掛けて算出しますが、

このとき、算出した所得税額から直接控除するものを『税額控除』、

課税所得金額の計算上、総所得金額から控除するものを『所得控除』といいます。

同じ額を控除するのであれば、税率を掛ける前の課税所得金額から控除するよりも

税率を掛けた後に控除したほうが、節税の効果も高くなります。

個人と法人における主な税額控除等を紹介します。


所得控除より税額控除のほうが節税効果は大


 個人で利用できる所得控除は、本人が支払った、本人または生計一親族が負担すべき健康保険料等を

支払った場合に控除できる『社会保険料控除』や、

一定の保険契約に基づき本人が支払った生命保険料等を控除できる『生命保険料控除』など

全部で15種類あります。

たとえば、個人に年500万円の所得がある場合、日本は超過累進課税なので所得税額は57万2,500円になります。

10万円の所得控除を受ける場合は、この課税所得金額の計算上500万円から10万円を差し引くことができます。

つまり、課税所得金額は490万円になるわけです。

一方、税額控除は、算出所得税額の57万2,500円から控除されます。

したがって、同じ10万円を差し引くのでも、税額控除のほうがより節税効果が高くなります。

個人が受けられる税額控除の主なものとして、

配当控除、外国税額控除、寄附金特別控除、住宅借入金等特別控除等があります。

これは法人でも同じです。法人の場合は課税所得に応じた法人税を納付しますが、

税額控除を受けると、算出した法人税額から控除分を差し引くことができます。

現在の法人税率は、2018年4月1日以降の開始事業年度の普通法人において、

資本金1億円以下の場合、課税所得金額が年800万円以下の部分については15%、

年800万円を超える部分については23.2%と決められています。

たとえば、課税所得金額が年500万円だったとすると、500万円×15%で、法人税額は75万円になります。

しかし、10万円の税額控除を受ければ、法人税額は65万円になります。


二重課税を避けるための税額控除

 税額控除にはさまざまな種類がありますが、法人が受けることができる代表的なものに、『所得税額控除』があります。

これは、法人が支払いを受ける利息や配当などにおいて、所得税法の規定によって源泉徴収された所得税額は、

法人税を前払いしたとみなされ、法人税額から控除することを認めるものです。

この所得税額の控除は、法人税との二重課税を避ける目的で設けられています。

同じく『外国税額控除』という二重課税を避けるための控除もあります。

日本の法人税法では、所得の生じた場所が国内でも海外でも、

日本企業であれば全て法人税が課されることになっています。

しかし、外国で所得が発生した場合、その国にも税金を納める必要があります。

日本と外国の両方で税金が課されると、二重課税になってしまいます。

そこで、外国で生じた所得税額をその年の所得税額から差し引くことができる外国税額控除が設けられているわけです。

控除できる所得税額には限度額がありますが、国外に支店がある場合などは、

外国税額控除を受けられる可能性があるので、確認しておきましょう。


政策のために設けられた臨時的な税額控除

 二重課税を避ける目的以外に、政策を後押しするために設けられている税額控除もあります。

たとえば、2022年4月に施行された『賃上げ促進税制』は、一定の条件を満たした企業を対象に、

要件の対象となる従業員の給与を前年度よりも一定以上増額した場合、

その増額分の一部を法人税から控除できるというものです。

企業側のコスト負担を減らし、賃上げを促進するという目的のために設けられた税制で、

2024年の3月31日までに開始する事業年度に適用されます。

こちらは企業(会社)だけでなく、個人事業主(青色申告者)も受けることができます。

また、産業競争力の強化に関する施策としては、『DX投資促進税制』が2021年度の税制改正で創設されました。

この税制は、DX(デジタルトランスフォーメーション)などに関する事業適応計画に基づいて

DX推進を実施することで、投資額について特別償却または税額控除の選択適用ができるというものです。

この税制も期限が設けられており、2023年3月31日までとなっています。


 税額控除には、改正などで廃止されない限りは継続的に適用が受けられるものと、

租税特別措置法に基づき、期限が決められている臨時的な制度が存在します。

特に、臨時的な制度はさまざまな控除があるため、自社に適用できる制度があるのか確認しておきましょう。 

   

※本記事の記載内容は、2022年11月現在の法令・情報等に基づいています。

 

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30万円未満の固定資産を一括で経費計上できる特例制度について    2022-10-20

   

   事業に使用する建物や車両、設備などの固定資産は、時間が経つにつれ価値が

減っていきます。

そのため、取得した年だけに経費計上するのではなく、耐用年数と同等の年数を

かけて費用化します。

この会計処理を『減価償却』といい、減価償却の対象となる固定資産を

『減価償却資産』と呼びます。

青色申告法人である中小企業者等の場合、この減価償却資産のなかで30万円に満たない額で取得した減価償却資産は、

『中小企業者等の少額減価償却資産の特例』により、取得した年度に損金として一括計上できます。

特例の概要や期限、適用の範囲について説明します。


減価償却費を求めるための計算方法

  中小企業者等の少額減価償却資産の特例は適用される期限が決められており、

これまでは2006年4月1日から2022年3月31日までとされてきました。

しかし、2022年の税制改正で、特例の期限は2024年3月31日まで延長されました。

この期間に青色申告法人である中小企業者等が取得した30万円未満の減価償却資産については、

特例によって取得した価額を一括して損金として計上できるようになります。

では、特例を使用した場合と通常の減価償却で処理する場合では、

どのくらい計上できる金額に差が出るものなのでしょうか。


減価償却費を計算で求めるには、減価償却資産の耐用年数を知らなければいけません。

減価償却資産は品目ごとに使用可能な期間である『法定耐用年数』が定められており、

法定耐用年数に沿って減価償却の期間も決まります。

また、減価償却費の計算方法は、計上する損金の額が毎年同額になる『定額法』と、

初めの年ほど多めに計上して年を経るごとに計上の額が少額になる『定率法』の2種類があります。


たとえば、ある中小企業が事業に使う耐用年数4年の機械を25万円で購入したとします。

定率法と定額法はどちらも減価償却費を求めるための償却率が、耐用年数ごとに決まっています。

この償却率を使用した以下の計算式により、減価償却費を求めることができます。


定率法:定率法償却率×未償却残高(購入年度は取得価額)=減価償却費

定額法:定額法の償却率×取得価額=減価償却費


定率法については、毎年減価償却していくなかで

『償却保証額(資産の取得価額×その減価償却資産の耐用年数に応じた保証率)』を下回った年は、

定率法償却率ではなく『改定償却率』という別の償却率を使用して計算します。

ちなみに、上記の例の耐用年数4年の減価償却資産における定額法の償却率は0.25、

定率法の償却率は0.50、改定償却率は1.00です。


この各種償却率を使用し、25万円で取得した耐用年数4年の機械を定率法で減価償却すると12万5,000円、

定額法では6万2,500円をその年度に経費計上できることになります。

そして、残りの未償却残高を来年度以降の複数年で計上していきます。


特例の対象となる法人と適用される範囲

   一方、中小企業者等の少額減価償却資産の特例を使用した場合では、取得金額の25万円を経費として

一括で計上できます。

つまり、そのまま25万円が損金計上できるため、特例を使用した場合のほうがその事業年度の節税になります。


また、年度末に30万円未満の減価償却資産を取得した場合、通常の減価償却では、年度末の1カ月分しか

減価償却費を計上できません。

しかし、特例を使用すれば年度末でも全額を計上することが可能です。


この特例が適用されるのは、資本金の額か出資金の額が1億円以下の中小企業等に限られます。

中小企業者等であっても、従業員の数が1,000人を超えている場合は適用されないため注意が必要です。


また、適用の対象となる減価償却資産については金額の上限が決められており、

30万円未満の減価償却資産を合計して300万円までとなっています。

もし、事業年度が1年に満たない場合は、300万円を12で割ったうえで、

その事業年度の月数を掛けた金額が上限になります。


この特例を利用するためには、特例の適用を受ける金額について会計処理し、

確定申告の際、確定申告書に少額減価償却資産の取得価額に関する明細書を添付して申告する必要があります。


多少の手間はかかりますが、特例の対象となるのは建物や車両、設備などのほか、

ソフトウェアや特許権、商標権などの無形減価償却資産も含まれます。

また、中古資産も含まれます。


会社を経営するうえで、中小企業者等の少額減価償却資産の取得価額の損金算入の特例の要件にあてはまる

減価償却資産は多くあります。

これから30万円未満の備品を調達する予定のある中小企業は、特例の活用を検討しましょう。



  ※本記事の記載内容は、2022年10月現在の法令・情報等に基づいています。

 

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経営者が労働基準監督署で相談できること    2022-10-12

   

   労働基準監督署(労基署)は、労働者からの相談や通報を受ける場所

というイメージを持つ人も多いでしょう。

しかし、実際は、事業主からの相談も受け付けています。

ただし、労働基準法や労働安全衛生法など、労働法に関連した相談には答えてくれますが、

法令外のことについては、事業主が判断しなければならないこともあります。

また、解雇の要件などは民事上の問題になるため、労基署は民事不介入の原則によって、

アドバイスすることができません。

経営者が労基署に相談できる範囲について、確認しておきましょう。


相談できるのは労働法関係の内容

   労基署は管轄の事業所を監督する厚生労働省の出先機関で、全国に321署あります。

業務については、労災保険の給付や労働者の保護のほか、労働法関係の相談受付などを行っています。

労基署では労働者はもちろん、事業主からの相談も受け付けており、主に労災保険関係や労働安全衛生関係、

そして労働条件関係の相談について答えてくれます。

たとえば、労災保険に関する相談では、事業主からは「労災保険料の計算方法を知りたい」や

「労災保険の請求手続きについて知りたい」などの相談が寄せられ、

労働条件に関する相談では、「法定労働時間を超えた労働をさせたい」「従業員を解雇したい」などの

相談が寄せられています。


   法定労働時間を超えて従業員に働いてもらう場合は『時間外・休日労働に関する届出(36協定届)』を

労基署に提出する必要があるため、会社の設立時に労基署を訪れた人もいるのではないでしょうか。

また、職場で問題を起こすことが多い従業員の処遇を巡り、労基署に相談をする事業主もいるようです。

ただし、注意したいのは、労基署が答えてくれるのは

労働基準法に基づく解雇の規定や手続方法に問題がないかどうかだけ、ということです。

労働契約法第16条では『解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、

その権利を濫用したものとして、無効とする』と定められています。

合理的な理由かどうかや社会通念上相当かどうかを判断するのは、労基署ではなく、裁判所になります。

そのため、労働基準法に基づいて解雇予告手当を30日分支払ったとしても、

解雇理由が客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当でないと裁判所に判断されたら、

当該解雇は無効になってしまいます。

民事不介入の原則によって、労基署は個々のケースについての判断が許されていません。

したがって、労基署では法令違反にならないようにアドバイスをしてくれることがありますが、

その解雇の有効性までは答えることができないのです。


経営をよい方向に向かわせるヒントを得る

   では、具体的にどのような相談のときに、労基署へ行くとよいのでしょうか。

労基署は法令に基づく相談であれば、とても親切に教えてくれます。

行政機関なので、午前9時半から午後5時半など、開庁時間に合わせた窓口での対応となりますが、

場合によっては電話での相談も受け付けています。

ハラスメント関連は都道府県の労働局、雇用保険関係はハローワークなど、

相談の内容によっては別の行政機関を紹介されることもあります。

しかし、ひとまずトラブルが発生したら、管轄の労基署に相談するとよいかもしれません。

労基署は事業者の法令違反を調査したり、取り締まったりする機関でもあるため、

相談に及び腰になってしまう事業主もいるでしょう。

しかし、相談をすることで労使間のトラブル解決のヒントにもなりますし、

事業者側に法令違反がある場合は指摘してもらうこともできます。

会社を経営していると、知らないうちに労働法に抵触していることも少なくありません。

労基署からの指摘は、是正の好機といえます。

どうして法令違反になってしまったのか、法令違反にならないためにはどこを改善したらよいか、

労基署の指摘は会社をよい方向に進めるチャンスでもあるのです。

労働法令違反が常態化していると従業員の不満が鬱積して、離職へとつながる可能性があります。

人手不足の折、経営を揺るがしかねない事態を招く恐れがありますので、

離職防止の観点からも労基署への相談は効果があります。


前述した通り、労基署では社内で起きたトラブルについて判断は下せません。

しかし、どのような手順で解決に向かえばよいかという相談には乗ってくれます。

知らぬ間に法令違反になっていたり、問題が大きくなってしまったりする前に、

経営者としてするべきことを確認しにいってはいかがでしょうか。

   

  ※本記事の記載内容は、2022年8月現在の法令・情報等に基づいています。

 

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 無償で資産を譲り受けた場合に会計処理が必要な『受贈益』とは   2022-09-15

   

   資金調達のために寄付型のクラウドファンディングを行った場合、

支援者から受け取った支援金は『贈与』または『受贈益』として会計処理します。

同じく、他社から資産を譲り受けた場合も受贈益として処理することになります。

受贈益は、基本的には無償や低額で譲り受けた資産や金銭を対象としており、

会計上は売上や経費とは別の『特別利益』に区分されます。

ただし、子会社から親会社への譲渡は受贈益の対象外になるなど、例外もあります。

今回は、会計処理のなかでも間違いやすい受贈益について、説明します。


タダでも法人税が課せられる受贈益

   近年、資金調達の方法として、ネット上で不特定多数の支援者からプロジェクト用の資金を募る

クラウドファンディングが注目を集めています。

クラウドファンディングのメリットは、

たとえば新商品開発のために支援者から資金を募るのであれば、

「購入者数が想定しやすい」「商品のPRになる」「金融機関からの借り入れよりも手軽」

などが考えられます。

このクラウドファンディングには、支援者に商品を提供する『購入型』と、

支援者に株式や分配金を配る『金融型』、

そして、リターンのない『寄付型』が存在します。

これら3つは会計処理が異なります。

それぞれどのように処理するか、みていきましょう。

   購入型は、通常の売買と同じように、支援者に提供する商品は『原価』、

支援者から受け取った支援金は『売上』として会計処理します。

ただし、購入型クラウドファンディングを行うのが法人の場合、注意が必要です。

法人では法人税の観点から、サービスや製品を「市場価格で売買すること」を原則とします。

また、金融型は『貸付金』と『借入金』で処理します。

では、寄付型はどのような処理になるのでしょうか。

   寄付型は、支援する側とされる側が法人か個人かで会計処理が異なります。

個人が個人から受け取った支援金は『贈与』で処理し、

個人が法人から支援を受けた場合の支援金は『一時所得』になります。

支援される側が法人の場合、個人・法人どちらから支援を受けた場合も、

会計では、どちらも『受贈益』として処理することになります。

   受贈益とは、無償や低額で法人が資産を譲り受けた際に使用する収益勘定のことで、

勘定科目では、特別利益に含まれます。

特別利益は法人税の課税対象となるので、タダもしくはタダ同然に譲り受けた資産(資金)だったとしても、

法人税が課せられることになります。


受贈益に該当する資産の譲渡

   クラウドファンディングの場合は、支援が現金で行われるので、そのままの金額で計上することになります。

では、それ以外に土地や社用車などを無償で譲り受けた場合は、どのように処理すればよいのでしょうか。

たとえば、社長や役員が個人で所有している土地を自分の会社に無償で譲渡するケースがあります。

その際は、土地の時価を算出し、その金額が受贈益として処理されることになります。

もし低額で譲渡する場合は、譲渡した金額と時価の差額が受贈益となります。

このケースにおいては、土地や社用車などはもちろん、建造物や事業用設備、商品在庫なども該当します。

いわゆる、形がある『有形固定資産』のほか、株式や特許権、商標権などの形のない『無形固定資産』の譲渡も

資産の譲渡に含まれます。

ただし、株式などとは異なり、看板やネオンサインなど、広告宣伝専用の資産は

ほかの用途に使用することができないため、受贈益には該当しません。

さらに、無償または低額の資産の譲渡があったとしても、子会社から親会社への譲渡など、

両社が支配関係にある場合は益金不算入となります。

益金不算入とは、決算書上では益金として計上されるものの、

税金計算上は法人税の課税対象となる利益には算入しない会計処理のことです。

ちなみに、資産を無償で譲り受けた場合、原則として消費税はかかりません。

ただし、低額でも金銭のやり取りが発生している場合は、その額に対して消費税が課税されます。

また、無償譲渡であっても、代物弁済や資産を交換した場合なども消費税が課税されるので注意が必要です。


   受贈益は会計処理のなかでも間違えやすく、資産の時価を算出する手間もかかります。

もし、受贈益の対象となる資産を譲り受けた場合は、よく確認しながら会計処理を進めていきましょう。

  ※本記事の記載内容は、2022年8月現在の法令・情報等に基づいています。

 

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 高年齢者、障害者などの就職困難者を雇用する事業主をサポート!   2022-08-17

   

  高年齢者(60歳以上65歳未満)や障害者、母子家庭の母などの

就職が特に困難な方を、ハローワークまたは民間の職業紹介事業者等の紹介により、

継続して雇用する労働者として雇い入れる事業主に対して助成金が支払われます。

これが、『特定求職者雇用開発助成金(特定就職困難者コース)』です。

人手不足に悩む事業主は、本コースをうまく活用し、雇用の安定につなげましょう。

特定求職者雇用開発助成金(特定就職困難者コース)


【助成対象となる事業主】

以下、すべてに該当する事業主が対象となります。

(1)雇用保険の適用事業主であること

(2)対象労働者(雇入れ日現在における満年齢が65歳未満の者に限る)をハローワーク、地方運輸局、

        適正な運用を期すことのできる特定地方公共団体、有料・無料の職業紹介事業者または

        無料船員職業紹介事業者の紹介により、雇用保険の一般被保険者として雇い入れる事業主であること

(3)対象労働者を雇用保険の一般被保険者として継続して雇用することが確実だと認められること

(4)対象労働者の雇入れ日の前後6カ月間(以下、基準期間)に事業主の都合による従業員の解雇

      (勧奨退職を含む)をしていないこと

(5)対象労働者の雇入れ日よりも前に特定求職者雇用開発助成金(特定就職困難者コース)の支給決定がなされた者を、

         支給申請日の前日から過去3年間に、その助成対象期間中に事業主の都合により解雇・雇止め等をしていないこと

(6)基準期間に倒産や解雇など特定受給資格者となる離職理由の被保険者数が対象労働者の雇入れ日における

        被保険者数の6%を超えていないこと

                                                                                                                                                     など

【助成対象となる労働者】

※雇い入れ日現在の満年齢が65歳未満の者に限る

ア.60歳以上の者

イ.身体障害者

ウ.知的障害者

エ.精神障害者

オ.母子家庭の母等

カ.父子家庭の父(児童扶養手当を受給している方に限る)

                                                                                                                                                    など

【支給額】

対象労働者に支払われた賃金の一部に相当する額として、下表の金額が、支給対象期(6カ月)ごとに支給されます。

※( )内は中小企業以外の企業に対する支給額・助成対象期間です。

<短時間労働者以外>

●高年齢者(60歳以上65歳未満)、 母子家庭の母等

支給額:60(50)万円

助成対象期間:1年

支給対象期ごとの支給額:30万円×2期(25万円×2期)

●身体・知的障害者

支給額:120(50)万円

助成対象期間:2年(1年)

支給対象期ごとの支給額:30万円×4期(25万円×2期)

●重度障害者等(重度障害者、45歳以上の障害者、精神障害者)

支給額:240(100)万円

助成対象期間:3年(1年6カ月)

支給対象期ごとの支給額:40万円×6期(33万円×3期)※第3期の支給額は34万円


<短時間労働者>

●高年齢者(60歳以上65歳未満)、母子家庭の母等

支給額:40(30)万円

助成対象期間:1年

支給対象期ごとの支給額:20万円×2期(15万円×2期)

●障害者

支給額:80(30)万円

助成対象期間:2年(1年)

支給対象期ごとの支給額:20万円×4期(15万円×2期)

【支給申請の流れ】

1.ハローワーク等からの紹介

2.対象者の雇入れ

(申請手続き)

3.助成金の第1期支給申請

4.支給申請書の内容の調査・確認

5.支給・不支給決定(申請事業主に通知書送付)

6.助成金の支給※第2~6期支給申請も同様の手続きが必要


なお、各助成金には、これ以外にも細かい支給要件がございますので、詳細は厚生労働省ホームページをご確認ください。

出典:厚生労働省ホームページ


 ※本記事の記載内容は、2022年7月現在の法令・情報等に基づいています。

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  期限延長!『交際費等の損金不算入制度』      2022-7-28

   

   税務会計における交際費とは、取引先などに対する接待や贈答などを

目的とした支出のことです。

税務上、交際費は原則として損金算入できないことになっていますが、

期末の資本金の額または出資金の額が1億円以下の法人は、

一部を損金として算入することが認められていました。

これを『交際費等の損金不算入制度』といい、成立当初は限定的な特例措置とされていましたが、

複数回にわたり期限が延長されており、2022年度税制改正大綱にも2年間の延長が盛り込まれました。

課税負担を減らすことのできる交際費等の損金不算入制度について説明します。


飲食店を支援するため2年間の期限延長

   日本には約382万の企業が存在し、その内の99.7%が中小企業です。

中小企業は、規模の面でハンデを負いやすい傾向があります。

そこで、中小企業を対象にした、いくつかの特例措置があります。

そのなかの一つが、『交際費等の損金不算入制度』です。

1954年に作られたこの制度は、度重なる改正を経て今に至ります。

そもそも交際費は『冗費』、無駄な費用であるとして、損金算入できないようにするのが国の方針でした。

しかし、接待などは円滑なビジネスを進めるうえで必要な費用であるという見方もあることから、

損金不算入制度の一部を変更する措置が行われました。

特に中小企業では、交際費を使うことで売上の維持や拡大につながることもあり、交際費の損金算入は、

その一部において可能になっています。

そもそもは臨時的な措置である制度でしたが、期間の延長も何度か行われており、

2022年度税制改正大綱でも、景気対策の一環として2年間の延長が盛り込まれました。

この特例制度の延長には、企業活動の活性化とともに飲食店の利用を促し、

新型コロナウイルス感染症の影響で苦境に陥る飲食業界全体を支援する目的があります。


交際費の範囲と損金算入できる金額

   次に、交際費とはどのような費用をさし、どのようなケースが損金に算入できるのかを説明します。

交際費は、国税庁のホームページで『法人が、その得意先、仕入先その他事業に関係のある者等に対する

接待、供応、慰安、贈答その他これらに類する行為のために支出するもの』と定義されています。

つまり交際費とは、飲食等のために要する『接待飲食費』を筆頭とした取引先との会食や接待などで発生する費用のことで、

従業員の福利厚生や会議の弁当や茶菓子などに要する費用は含まれません。

また、接待飲食費であっても、その支出する金額を飲食等に参加した者の数で割って計算した金額が

5,000円以下である場合は、損金不算入となる交際費等から除かれます。

5,000円以下であれば、特例制度を使わなくても経費として計上できる(損金算入できる)のが、その理由です。

また、制度の利用は資本金の額または出資金の額が1億円以下の法人にしか認められていませんので、注意が必要です。

資本金の額または出資金の額が1億円以下の中小企業は、損金に算入する額について、下記のいずれかを選ぶことができます。

(1)支出する交際費等の額のうち、接待飲食費の50%相当額以下の金額

(2)支出する交際費等の額のうち、年800万円までの金額

(2)の800万円までの額のことを『定額控除限度額』と呼びます。

  たとえば、年間の交際費のうち、接待飲食費が1,000万円ほどになるのであれば、

  50%相当額以下の金額は500万円になるので、(2)を選択して、定額控除限度額である800万円を

  損金算入するほうが課税負担は軽くなります。

  つまり、接待飲食費が1,600万円を超えるかどうかが、(1)と(2)の分かれ道になるのです。

  接待飲食費の合計額が1,600万円に近づいたら注意しましょう。

たとえ少人数での会食や接待であっても、経費は一年の間に積み重なっていくものです。

自社の交際費は随時確認し、本制度を活用できるよう準備しておきましょう。


    ※本記事の記載内容は、2022年7月現在の法令・情報等に基づいています。

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 労働法違反になるかも!? 退職希望者を引き止めるときの境界線       2022-7-20

   

   労働者自身の意思表示による退職については、労働法ではなく、

民法の定めにより進めることになります。

そもそも憲法では『職業選択の自由』が認められており、

企業にこれを侵害する権利はありません。

自社に必要な人材であればあらゆる手段を講じて引き止めたくなるものですが、

強引なやり方をすると法令違反になることもあります。

退職希望者を引き止める際、行ってはいけないことについて解説します。


退職を決めた労働者の慰留成功率は低い

 民法の定めにより、正社員など『期間の定めのない雇用契約』を結んでいる労働者は、

2週間前に退職の意思を告げることで、退職してもよいことになっています。

たとえ就業規則に『退職する際は1カ月前に告げること』と記されていても、民法が優先されます。

一方、契約社員など『期間の定めのある雇用契約』の労働者は、雇用期間が終了するまで退職できません。

しかし、病気や怪我、介護や出産など『やむを得ない事由』があれば、退職が認められています。

退職とは、労使間で締結した労働契約を解除することを意味し、基本的には労働者の意思が優先されます。

使用者である企業側が契約の解除を無効にすることはできません。

将来性のある有望な社員が辞めてしまうことで、会社内の士気が下がることもあります。

連鎖的に退職が続き、人手不足に陥ってしまうこともあるでしょう。

これまでかけた育成コストが無駄になってしまうという可能性もあります。

しかし、辞めようとしている社員を無理に引き止めるのはおすすめできません。

退職を思いとどまらせるための会社側の対応を『慰留対応』と呼びますが、その成功率は1割にも満たないといわれています。

つまり、一度退職の意思を固めた社員に退職を思いとどまらせるのは、ほぼ不可能に近いのです。


唯一、退職を引き止めることができるのは、退職しようかどうか迷っている社員から相談を受けたときです。

人間関係が退職の理由であれば部署異動を提案したり、条件面が理由であれば新しい条件を提示したりと、

話し合いによって何らかの解決策を探ることもできるでしょう。

しかし、すでに退職を決めている社員に対しては、こうした話し合いもあまり意味がありません。

基本的には、会社の改善点をヒアリングするなどして、次の退職者を出さないための

前向きな取り組みにつなげていくことをおすすめします。


労働法に抵触する在職強要

 強引な方法で退職希望者を引き止めるのは『在職強要』と呼ばれ、労働法に抵触する可能性があります。

たとえば、「退職するなら未払い分の給与を支払わない」「退職金を支払わない」などの脅し文句は、

労働基準法違反となります。

すでに働いている分の賃金は、労働者に全額支払うのが当然です。

また、退職金に関しても、あらかじめ就業規則などで定めている場合は滞りなく支払う義務があります。

もし、賃金を支払わないなどして従業員に嫌がらせをしてしまった場合、

支払いが遅れた期間に対して遅延損害金が発生するので注意が必要です。


同様に「退職するなら有休消化を認めない」も、労働基準法違反です。

有給休暇の取得は、労働基準法第39条で定められた労働者の権利であり、会社側は取得を拒否することができません。

また、「辞めるなら懲戒解雇にする」という引き止め方も有効ではありません。

懲戒解雇は、労働者の横領や機密漏洩など懲戒解雇に相当する理由がなければ全て無効になります。

ほかにも「離職票を発行しない」や「損害賠償請求をする」といった脅しも、当然認められません。

離職票はハローワークからも交付できますし、労働者側が損害賠償責任を負わされるのは極稀なケースです。

労働基準法第5条では、

『使用者は、暴行、脅迫、監禁その他精神または身体の自由を不当に拘束する手段によって、

労働者の意思に反して労働を強制してはならない』と定めています。

在職強要が行き過ぎると、この労働基準法第5条に違反することになり、会社に対して

1年以上10年以下の懲役または20万円以上300万円以下の罰金が科される可能性もあります。


従業員の離職は会社にとって損失となりますが、無理な引き止めは法律的に禁止されています。

もし、従業員の意思が固まっているのであれば、その人が退職することを早めに周知して、

業務の引き継ぎなど必要なことをひとつずつ行っていきましょう。

   

※本記事の記載内容は、2022年7月現在の法令・情報等に基づいています。

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 消費税の軽減税率が適用される『一体資産』の条件とは?       2022-7-13

   

   2019年10月に、消費税が8%から10%に引き上げられ、同時に軽減税率制度も

適用開始されました。

軽減税率とは、特定の品目に対して消費税の税率を8%に据え置く制度のことで、

飲食料品や新聞などが対象になります。

ちなみに、飲料であってもビールなどのアルコール類は対象外です。

ただし、これらの軽減税率の対象となる飲食料品と、対象外の品目が混在する商品については

『一体資産』と呼ばれ、軽減税率が適用される場合と、適用されない場合があります。

今回は、一体資産が軽減税率の適用を受けるための条件について解説します。


軽減税率の対象となる一体資産の条件は

 まずは、対象となる一体資産をあげていきましょう。

たとえば、玩具等がおまけとして付随するお菓子や、缶詰とお皿のギフトセット、

食品と食品以外のグッズ等が混在した福袋などは、軽減税率の対象となる食品と対象外の品目で構成された

一体資産に該当します。

その商品が一体資産で軽減税率が適用を受けられるかは、以下の条件を満たしているかどうかで判断します。

(1)一体資産の譲渡の対価の額(税抜価額)が1万円以下であること

(2)一体資産の価額のうちに当該一体資産に含まれる食品に係る部分の価額の占める割合として、

   合理的な方法により計算した割合が3分の2以上であること

『合理的な方法により計算した割合』とは、一体資産における食品と、それ以外の品目の売値を比較した場合の割合や、

原価の割合を指します。

つまり、質量や面積ではなく、売値や原価を基に食品の占める割合を求めるということです。

たとえば、一体資産における食品の仕入額が1,500円で、それ以外の品目の仕入額が600円の場合は、

一体資産の原価は1,500円+600円で2,100円になります。

食品の割合は1,500円÷2,100円で約71%となり、『割合が3分の2以上』の条件を満たしているため、

この場合は軽減税率が適用されることになります。


一体資産と一括譲渡の判断基準とは

 一体資産は、軽減税率の対象となる品目と、それ以外の品目がセットになっている商品のことです。

しかし、それぞれ単体で売っているものをその場で組み合わせて販売する場合、一体資産には該当しないので

注意が必要です。

たとえば、スーパーなどで別々に販売している、アルコール飲料とお惣菜をセットで値引き販売する場合は、

一体資産とはなりません。

これは、軽減税率対象の品目・対象外の品目の『一括譲渡』といいます。

また、飲食料品と飲食料品以外をあらかじめ詰め合わせた商品でも、個々の内訳表示をしていると

それも『一括譲渡』となります。

ハンバーガーショップの例を参考に、具体的に確認しましょう。

持ち帰り用のハンバーガーに、ドリンク、または玩具をセットにして販売するとします。

この場合、客側がどちらかを選べるので一体資産には該当しません。

また、ハンバーガーと玩具をセット販売する場合、玩具の種類を複数から客側が選択できる場合も、

一体資産には該当せず、一括譲渡となります。

一体資産とは、あらかじめ食品とそれ以外の品目が一つの資産として形成されているものに限ります。

顧客が何らかを選択できる場合、購入する段階で一つの資産を形成していることにはならないと判断されます。

もし軽減税率の対象と、そうでないものを、セットで販売する(一括譲渡を行う)場合は、

軽減税率の対象となる食品とそれ以外の品目の税率を合理的に区分しなければなりません。

なお、ハンバーガーにドリンクと非売品の玩具(対価を設定していない)をセットにして販売する場合、

販売価格が500円で、ハンバーガーの単価が300円、ドリンクの単価が200円であれば、

セット価格からハンバーガーとドリンクの価格を控除した後の残額を非売品の売価とし、

玩具の売価を0円とすることで、事実上、セット価格の500円に軽減税率を適用することも、

合理的な区分として認められています。

また、顧客が選択できる場合は一体資産ではなく一括譲渡になりますが、一方で、『ハンバーガー+おもちゃA 500円』

『チーズバーガー+おもちゃB 550円』などあらかじめ選択可能な組み合わせを提示し、

それぞれの組み合わせごとに価格を提示していれば、一体資産となります。


※本記事の記載内容は、2022年7月現在の法令・情報等に基づいています。

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社員の健康をサポートする! 新しい役職『CWO』とは?        2022-6-15

   

健康経営』とは、従業員等の健康管理を経営的な視点で考え、

戦略的に実践することです。

経済産業省によると、従業員の健康に対して、企業がさまざまな投資を行うことは、

組織の活性化や生産性の向上などにもつながるとされています。

近年、この取り組みは徐々に浸透しつつあり、健康経営を押し進める

『CWO(Chief Wellnes Officer)』という役職を設置する企業も出てきました。

今回は、CWOの役割や、この役職を設けることの効果について説明します。

CWOとは? 健康経営とは?

 最近では、『最高経営責任者』を意味するCEO(Chief Executive Officer)が、日本企業でも

当たり前の役職名になりました。

C〇〇という役職は、CEOのほかに、実務の最高責任者であるCOO(Chief Operating Officer)や、

財務に関する最高責任者のCFO(Chief Financial Officer)などがあります。

そのなかで、近年、注目を集める役職にCWO(Chief Wellnes Officer)があります。

CWOは『最高健康責任者』を意味しており、福利厚生だけでなく、企業経営の視点から、

従業員の健康を保持・増進するポジションにあたります(まれにCHO、Chief Health Officerと呼ばれることもあります)。

なぜ今、CWOが注目を集めているのでしょうか。

その背景には日本の高齢化や労働環境の変化があります。

日本では、労働者の高齢化に伴う労働力人口の減少が問題化しています。

この人手不足は、労働者一人ひとりの負担を増やし、長時間労働やサービス残業などの労働環境の悪化を招きました。

また、仕事のしすぎによる“過労死”も大きな問題となっており、過労が原因とみられる脳・心臓疾患にかかる労災の請求件数は

非常に多くなっています。

これらの現状を受け、政府は、健康経営の考え方を普及することを決定しました。

現在、経済産業省を中心に、顕彰制度や認定制度などの施策が行われています。

では、現在推進されている健康経営とは、どのような考え方なのでしょうか。

従来であれば、QOLの向上やワーク・ライフ・バランスなどは、福利厚生の範囲内で考慮されるという認識でした。

しかし、健康経営においては、従業員の健康保持や増進の取り組みを経営的視点から考え、戦略的に実践することで

改善を目指します。

従業員の健康増進は、経営管理において重要な要素です。

たとえば、一人ひとりの疲労の軽減や睡眠不足解消、QOLの向上などは、医療費の圧縮を可能にし、

企業の活性化や生産性の向上などにも寄与します。

経済産業省のWebページにおいても『企業が経営理念に基づき、従業員の健康保持・増進に取り組むことは、

従業員の活力向上や生産性の向上等の組織の活性化をもたらし、結果的に業績向上や組織としての価値向上へ繋がることが

期待される』と明言されているように、これからの企業の成長には、健康経営の視点が欠かせません。

そして、この健康経営の最高責任者が、CWOなのです。


CWOによる取り組みの事例を紹介!

各社のCWOは、従業員の健康を守るために、さまざまな取り組みをしています。

外食大手の吉野家ホールディングスは、2015年にCWO職を新設しました。

従業員の心と体の健康を『経営資源』ととらえる考え方で、生活習慣改善を目的とした健康指導アプリの導入や、

社員専用の睡眠相談窓口サイトの開設など、健康経営に積極的に取り組んでいます。

また、吉野家と同時期にCWOを新設したタクシー会社大手の日本交通は、生活リズムが乱れがちなタクシー業界において、

健康増進委員会の設置や、全従業員に対する睡眠時無呼吸症候群の簡易検査など、さまざまな健康増進施策を実施しました。

ANAホールディングスでは、CWOの指揮のもと、各グループ会社にウェルネスリーダーを配置し、

健康データの分析結果から、業種特性や職種別の働き方を踏まえた課題を抽出。

病気のリスクだけではなく、日常的な観点からも健康に資する施策を行いました。

グループ全体で、健康管理・疾病予防・メンタルヘルス・安全衛生活動の強化に重点的に取り組んでいます。

家電量販店大手のビックカメラでも、社長がCWOを兼任し、先頭に立って健康経営に取り組んでいます。

従業員の健康維持促進のため、一部管理職を除く社員約4,500名を対象に『健康支援手当』を支給。

禁煙や栄養バランスのよい仕出し弁当の導入のほか、ウェアラブル端末や歩数計、体組成計、血圧計、調理家電や寝具、

フィットネス・スポーツ用品を会社支援による利用促進が行われています。

このように、CWO職を設置すると、健康経営により積極的な姿勢を打ち出すことが可能になります。


企業のベースは従業員の健康です。

健康推進によって、さらなる活性化を目指すこともできるのではないでしょうか。


※本記事の記載内容は、2022年5月現在の法令・情報等に基づいています。

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税金やお金の流れがよくわかる『決算書』の見方        2022-6-7

   決算書は、企業の一定期間の経営成績や財政状態等を示す書類であり、

確定申告の際にも必要な大切なものです。

決算書を見れば、その会社の経営実態や納める税金の額を知ることができます。

そこから経営上の問題点や改善点を読み取ることもでき、決算書の見方を理解すること

で、今後の経営方針や経営戦略も立てやすくなります。

そこで今回は、会社経営に携わる者であれば知っておきたい、決算書の見方について

解説します。


決算書は事業計画を立てるためにも必要

   会社の会計期間は、原則として1年間で区切るのが一般的で、この会計期間の経営成績や財政状態等を明確にするのが

決算書です。

法人の確定申告は、決算日の翌日から2カ月以内に行い、作成した決算書を基に、株式会社であれば株主に配当金を

支払うことになります。

また、決算書は会社の経営実態が明確に示されるものなので、金融機関による融資審査や取引先の信用審査にも用いられます。

そして、決算書は1年間の経営を見直すことにも使われます。

決算書に関連する業務は経理業務の範疇ですが、経営者は決算書の見方を知っておくことで、経営上の問題点を理解し、

次年度の事業計画を立てることができます。

過去の決算書と比較することで、複数年の損益を把握でき、長期的な経営戦略も立てやすくなるでしょう。


保有している資産や負債などを表す貸借対照表

   決算書を読み解くには、まずその種類を知らなければいけません。

決算書とは、財務諸表の総称のことで、主に『貸借対照表』や『損益計算書』などがあります。

貸借対照表は、会社の一定時点での財政状態を表すための書類で、会計期間が終わった時点で

会社が保有する資産や負債、純資産(資本)が記載されています。

表は、左側に会社が保有している『資産の部』、右側に資金の調達方法である『負債の部』と

『純資産(資本)の部』が配置されています。

資産の部は現金や受取手形などの『流動資産』、建物や土地などの『固定資産』、

開発費などの『繰延資産』に分かれており、会社の資金がどのような資産に使われているのかを示しています。


一方の負債の部と純資産(資本)の部は、資産を入手するために、どのような方法で資金を調達したのかを示しています。

負債と純資産はそれぞれ他人資本、自己資本と呼ばれ、このどちらに算入されているかで、

負債である借入金でまかなったのか、それとも純資産である利益を使ったのかがわかります。

つまり、資産の部はその調達方法によって得た資産であるため、左側と右側の合計金額は一致している必要があるのです。


この貸借対照表からは、たとえば「在庫を抱えすぎていないか」「使われていない土地はないか」

「未回収の不良債権がないか」など、会社の無駄な資産や資金繰りなどをチェックすることができます。


一定期間の収益や費用などを表す損益計算書 


   一方、損益計算書は、会社が一定期間にどのくらい収益をあげたのか、費用がかかったのかを示します。

そして、収益から費用を差し引いた最終的な利益も記載します。

この損益計算書によって、会社の一定期間の経営成績がわかります。

損益計算書には『収益』『費用』『利益』が記載されており、利益には『売上総利益』『営業利益』『経常利益』

『税引前当期純利益』『当期純利益』といった区分があります。

このなかでも特に重要なのは、本業のみの利益を示した営業利益と、企業が事業全体で得た利益を示す経常利益です。

税引前当期純利益や当期純利益は、特別利益や特別損失なども含まれるため、会社が本当に利益を上げているのかどうかを

把握するには、営業利益と経常利益をチェックするとよいでしょう。


   決算書にはほかにも、現金の流れを示した『キャッシュ・フロー計算書』があり、貸借対照表や損益計算書と合わせて、

『財務三表』と呼ばれることもあります。

経営実態を把握するには、決算書のどれか一つを見るのではなく、すべてに目を通すことが大切です。

損益計算書で経営成績が良好でも、貸借対照表を見てみると資金調達がうまくいっておらず、

キャッシュが少なくて資金繰りに苦労しているというケースもあります。

経理担当者はもちろん、経営に携わる人がみな決算書で会社の状況を読み取れるように、正しい見方を覚えていきましょう。


※本記事の記載内容は、2022年5月現在の法令・情報等に基づいています。

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 損益の計算における発生主義・現金主義・実現主義の違いとは       2022-5-18

   企業会計では、一定の会計期間の損益を計算することを『期間損益計算』

と呼びます。

3月31日が決算日であれば、前年の4月1日から3月31日までの1年間が会計期間と

なり、その1年間の会社の収益から費用を差し引くことで期間損益を求めることが

できます。

このとき、収益と費用を計上するタイミングによって『発生主義』『現金主義』

『実現主義』という考え方が存在します。

企業の会計担当者にとって、会計の基礎となる3つの概念について解説します。


現金主義はわかりやすい一方で弱点もある

   一定の会計期間でどれだけ収益があったのか、どのくらい費用がかかったのかを知ることは、

会社を運営していくうえで欠かせないことです。

会社には原則として、永続的に営業活動を行っていくという前提があります。

したがって、企業会計ではある一定の会計期間で区切り、その期間の損益を求めることで、

その一定の会計期間の実績を表すのです。

会計期間は、決算日までの1年間で区切ることがほとんどですが、四半期(3カ月)や半年で区切ることもあります。

この会計期間の損益について、日本の会計基準では、収益を『実現主義』、

費用を『発生主義』で計算することを原則としています。

会計基準は、課税所得を計算する際の収益認識の基本にもなるので、会計担当者は実現主義と発生主義、

そして『現金主義』とはどういったものかを理解しておく必要があります。


まず、長い会計の歴史のなかで、最初に生まれたのは現金主義でした。

現金主義は、その名の通り、現金のやり取りが発生した段階で損益が確定するという考え方です。

たとえば、30万円の商品を仕入れて、50万円で売った場合に、仕入れのタイミングで仕入れ値の30万円を計上し、

売ったタイミングで売上金の50万円を計上します。

とてもシンプルでわかりやすい考え方ですが、前払いや後払いの際に、正しく損益計算が行えないのが弱点です。

30万円で仕入れた50万円の商品を後払いで売り上げた場合、現金がまだ手元にないため、50万円を計上することができません。

そこで、現金のやり取りに関わらず、取引が発生した段階(収益や費用が発生した段階)で計上を行う

発生主義という考え方が生まれました。

発生主義は、仕入れ値や経費、売上金が確定した段階で計上するため、前払いや後払いにも対応することができます。

前述の例では、後払いであっても50万円の商品を売った段階で売上金を計上できることになります。

また、発生主義を別の言い方に置き換えると、現金のやり取りに関係なく、

『経済的な価値が発生して消費されたタイミング』で計上するやり方だといえます。

たとえば、商品を製造するための機械を50万円で購入した場合、現金主義では購入した段階で経費として50万円を計上します。

しかし、今後何年もその機械が商品を作り出すことを踏まえると、経済的な価値が発生して、消費されたタイミングは

毎年訪れることになります。

そこで、発生主義では『減価償却』という方法で費用の計上を行います。

この減価償却が発生する資産のことを減価償却資産と呼び、一般的には時間の経過によってその価値が減っていく

機械設備や器具、備品などが該当します。

減価償却では、これらの減価償却資産の取得に使った費用を、一定の方法によって各年分の必要経費として配分して

手続をします。

たとえば、機械の耐用年数が5年であれば、1年ごとに10万円ずつ、5年に渡って減価償却費として計上していくことに

なります。

発生主義で経理処理をすれば、一見問題なさそうに思えるかもしれません。

ところがすべてに発生主義を適用すると、収益に関しては『未実現の収益を計上してはいけない』という

企業会計原則のルールに抵触してしまいます。つまり売上の立っていない収益(実現されていない収益)は、

その会計期間の収益としては認められないということです。

そこで、日本の会計基準では、収益の計上に関して実現主義が採用されています。

実現主義は、収益の計上日は商品の販売やサービスの提供を実現した日となります。

具体的には「販売した日」や「提供した日」です。

たとえば、60万円の商品の発注を受けて、20万円の手付金を受け取ったとします。

このとき、発生主義であれば60万円をそのまま計上しますが、実現主義では手付金の20万円を前受金として計上します。

商品を取引先に受け渡した時点で60万円の売上を計上し、手付金20万円(前受金)との相殺と、

残りの40万円は売掛金として仕訳します。

このように、より正確な期間損益計算ができるのが、実現主義の特徴です。


 前述した通り、日本の会計基準では、収益は実現主義、費用は発生主義で計上します。

それぞれを計上するタイミングをよく理解して、間違いのないように会計処理を行っていきましょう。

 

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 中小企業における法人税の特例と適用期間の延長について       2022-5-11

   

   現在、普通法人の法人税の税率は23.2%に定められています。

一方、規模の小さい中小企業は特例として『軽減税率』が適用され、

800万円以下の所得に関しては、法人税率が15%に設定されています。

この特例を『中小企業者等の法人税率の特例』といいます。

2021年度の税制改正では、中小企業者等の法人税率の特例の期間が2年間延長

されることになりました。

今回は、特例を受けることができる中小企業の適用範囲と併せて解説します。


軽減税率の特例を利用するための条件

中小企業者等の法人税率の特例は、租税特別措置法によって定められた中小企業が対象です。

法人税は、年間の所得に対して課せられます。

この特例により、中小企業は800万円以下の所得に関して、15%の軽減税率が適用されることになります。

この措置には期限があり、2021年度の税制改正で延長が決定しました。

改正前の『2021年3月31日までに開始する事業年度』から、2年延長され、

『2023年3月31日までに開始する事業年度』までとなります。

特例の対象はあくまで中小企業のみで、普通法人はこれまでと同じ、23.2%の法人税率です。

この特例を受けるためには、原則として『資本金の額または出資金の額が1億円以下の法人』であることが条件になります。

つまり、上記の条件を満たす企業が中小企業だと言い換えることもできます。

ただし、各事業年度終了の時において、大規模法人(大法人)が一定の株式を保有しているなど

大企業の支配下にある企業は、中小企業であっても、特例を受けることはできません。

ちなみに、大法人とは、資本金または出資金の額が5億円以上の法人のことを指します。


特例の要件から省かれる適用除外事業者とは

 また、過去3年の平均所得金額が15億円を超える中小企業は、15%の軽減税率ではなく、

19%の本則税率が適用されることになります。

この企業のことを『適用除外事業者』と呼びます。

国税庁では、『その事業年度開始の日前3年以内に終了した各事業年度を基準年度とし、

その年度の所得金額の合計額を各基準年度の月数の合計数で除し、

これに12を乗じて計算した金額が15億を超えている場合』を適用除外事業者と定めています。

ただし、設立後3年を経過していないなどの一定の事由がある場合には、一定の調整を加えた金額により判断されます。

この適用除外事業者に該当せず、大法人の支配も受けていなければ、中小企業と判定され、特例を受けることができます。


まとめると、中小企業以外の普通法人は、所得の区分がなく、一律23.2%の法人税率が課せられます。

また、大法人との支配関係がない中小企業は、800万円以下の所得に関して15%の税率となります。

また、過去3年の平均所得金額が15億円を超える適用除外事業者は、

800万円以下の所得に関して19%の法人税率で計算することになります。

なお、800万円を超える所得に関しては、どちらも普通法人と同じ23.2%の法人税率になります。


法人税は、事業の運営に関わる大事な税金です。

近年は大企業が税制の優遇策を受ける目的で、減資を行って中小企業になる動きが相次いでいます。

しかし、中小企業化は、税負担が軽くなるというメリットと、コストの削減や資金調達がしづらくなるというデメリットの両面があるので慎重に検討しましょう。 

 

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赤字でも納税し続けなければならない?事業を行う法人にかかる『税金』の種類        2022-4-13

   

  法人には、『法人税』『法人住民税』『法人事業税』など、

さまざまな税金がかかります。

法人税は赤字や課税所得がない場合は原則発生せず、事業を行っていない場合には

法人住民税が免除対象となることもあります。

今回は法人格を有することでかかる税金について紹介します。


法律上『法人格』を有する間は営業利益が赤字でも納税は続く

   法人を立ち上げるときには、『登録免許税』などが課税され、定款をつくって登記しなければならないなど、

さまざまなステップがあります。法人は、事業を運営する目的で設立しますが、何らかの事情で廃業せざるを得ない

場合も出てきます。たとえば、一人会社で社長が病気になったり、

別事業を優先することになったり、そもそも事業がうまくいかないので辞めるといったケースも考えられます。

完全に事業をたたむ場合には、法人を解散するという選択肢もありますが、

期間を空けて事業を再開する見込みがある際は、『法人格』を残したまま、休業するという選択肢もあります。

そのような場合、法人にかかる税金はどうなるのでしょうか。

 

 法人になると、法人税などのほか、『消費税』や『法人事業税』、『固定資産税』なども納めることになります。

これらの税金は、基本的に課税対象額があれば発生します。

つまり、基本的に課税対象額がないときには税金が課税されない仕組みというわけです。

ただし、休業時でも毎年の税務申告は必要になります。

休業時には法人税確定申告書に『休業中』と記載し、申告所得ゼロで提出すれば、法人税は発生しません。

また、休業中にかかった費用がなければ経理処理は不要ですが、休業中でも会社を維持・存続させるために

必要な費用が発生した場合は経理処理する必要があります。

この申告を2期連続で期限内に行わなかった場合は青色申告承認の取り消しとなります。繰越欠損金の適用も受けられません。

そして『法人住民税』は、事業が赤字であっても、納税する義務があります。


法人住民税とは? 会社休眠で均等割の納税義務の必要性

 『法人住民税』は、事業所のある地域を管轄している自治体に対して、法人が納めるべき地方税のことで、

『均等割』と『法人税割』から構成されています。

●均等割 : 全ての法人に納税義務があり、法人の資本金等の額と従業者数などによって、年税額が区別されます。

赤字であっても納税しなければなりません。

●法人税割 : 法人税の金額をもとに算出され、課税される税金で、法人税額が多いほど額が大きくなります。

 

 株式会社を持つ場合には、定期的に『役員変更登記』などを行う必要があります。これらの登記を一切せず

12年間放置していると、“みなし解散”の扱いになる可能性があります。みなし解散から3年を過ぎてしまうと、

事業を再開しようとした際に、新たに会社設立費用(20~30万円)がかかることになります。

 休業中、赤字であれば法人税はかかりませんが、先述の法人住民税など一部課税される税金はありますし、

休業中にも必要な手続きは発生し続けます。

休業を考える際は、その点を考慮して慎重に判断しましょう。

 

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労働契約における基本的な禁止事項を確認する   2022-3-23

   

   労働契約上、使用者が労働者を雇用する際には、会社と労働者の間で

『労働契約』を結び、契約書を交わします。

このとき、使用者である会社側には、労働者に不当な待遇を強いることのないよう、

禁止事項が定められています。

もし不正な契約を結んでしまったら、後にトラブルに発展してしまうこともあります。

そこで今回は、うっかり禁止事項に触れる条件を契約書に盛り込むことがないよう、

禁止事項とその目的について確認していきます。


よく知られている禁止事項を紹介

労働契約における禁止事項は、主に4つが定められています。
それぞれについて順番に見ていきましょう。

●賠償予定の禁止

   労働基準法第16条の『賠償予定の禁止』は、労働契約の不履行による違約金や損害賠償金の請求額を

前もって定めることを禁じるものです。

具体的には、従業員に対して、退職した場合に違約金を支払わせる約束をしたり、

業務上のミスで会社に損害を与えた場合の損害賠償金の額を決めておいたりすることが、

『賠償予定の禁止』に該当します。

しかし、この禁止事項は、違約金や賠償金の額をあらかじめ労働契約に盛り込んではいけないというものであり、

実際に会社へ損害を与えた従業員に賠償請求を行うことは法律違反には当たりません。

また、研修期間や資格取得期間中に従業員が辞めてしまった場合に費用の返還を求める約束をしておくことも、

賠償予定の禁止に当たらない可能性があります。

●前借金相殺の禁止

   労働基準法第17条の『前借金相殺の禁止』は、後の賃金で返済することを条件に従業員へ賃金を前貸しして、

前貸し分を勝手に毎月の給与から差し引くことを禁じたものです。

また、前貸しを条件に、労働を強制したり、退職を妨げたりすることも禁止されており、

そのような条件を労働契約に盛り込んでもいけません。

労働基準法第24条では賃金の支払について、

賃金は、通貨で、直接労働者に、その全額を毎月1回以上、一定期日を定めて支払わなければならない

と定めていることも、給与から借金を差し引くことを禁止する根拠になります。

ただし、前貸しそのものは禁止されておらず、労働者が使用者に拘束されないことが明白の場合に限り、

金銭を融通することは問題ないとされています。


強制的な貯金や組合活動の禁止も法律違反

●強制貯金の禁止

   労働基準法第18条の『強制貯金の禁止』は、労働契約を結ぶ際に、従業員に貯蓄を強制させたり、

貯蓄金を会社が管理したりすることを禁じたものです。

たとえ盗難や従業員の浪費を防ぐなどの理由があったとしても、貯金通帳や印鑑を会社側が預かったり、

管理したりしてはいけませんし、労働契約にこれらの規定を盛り込むことは禁止されています。

また、社員旅行の積立などの理由があったとしても、会社側が指定した銀行に口座を作らせて、

預金の積立を強制してもいけません。

強制貯金の禁止に該当しないのは、従業員の任意で積立が行われる場合です。

給与から社員旅行などの費用として、給与から毎月一定額が天引きされる旨の労使協定が結ばれている場合は

強制貯金にはなりません。

ただし、用途不明な天引きはトラブルのもとになるため、労使協定を結ぶ際には、

従業員にその内容をよく説明する必要があります。

●黄犬契約の禁止

   憲法第28条と労働組合法第7条第1号に定められる『黄犬契約の禁止』では、

労働者が労働組合に加入しないことや、労働組合から脱退することを条件とした労働契約の締結を禁止しています。

会社側が従業員に対して労働組合への不加入や脱退を強制することになり、労働組合の団結権を侵害することになるのが

禁止の理由です。
また、労働組合の結成や組合活動を禁止したり、労働組合への加入を妨害したりすることも、同じ不当労働行為にあたります。


労働契約を結ぶ際は、これら4つの禁止事項をはじめ、労使双方の利益・立場を守るためのさまざまな禁止事項があります。

知らず知らずのうちに、労働契約に盛り込んでしまわないよう、注意しましょう。 


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2022年4月から中小企業でも義務化! パワハラ防止法   2022-3-16

   

   2020年に、パワーハラスメントの防止措置を企業の義務とする、

改正労働施策総合推進法が施行されました。

この法律のなかの『パワハラ防止の措置義務』については、これまで大企業が対象

でしたが、2022年4月からは中小企業も義務化されます。

すでに、職場におけるセクシュアルハラスメントについては、男女雇用機会均等法に

よって事業主に防止措置を講じることが義務づけられていますが、

今後は、セクハラと併せてパワハラについても防止策を講じていくことになります。

“パワハラ防止法”とも呼ばれるこの法律の対応策について紹介します。


急増するハラスメントに対処する法改正

   厚生労働省が発表した『令和2年度個別労働紛争解決制度の施行状況』によると、

2020年度の総合労働相談コーナーへのいじめ・嫌がらせの相談件数は7万9,190件で、民事上の個別労働紛争の

相談件数のなかで9年連続の最多となりました。

このような状況を鑑みて、職場におけるパワハラの防止を強化する目的で、改正労働施策総合推進法、

いわゆる“パワハラ防止法”が施行されました。

パワーハラスメントの雇用管理上の措置義務について、中小企業はこれまで努力義務でしたが、

2022年4月からは義務化され、必要な防止措置を講じなければいけません。

パワハラ防止法では、パワハラの定義についても『(1)優越的な関係を背景とした、

(2)業務上必要かつ相当な範囲を超えた言動により、(3)就業環境を害すること』と定めています。

(1)は、社長や上司など地位が上であることを利用し、従業員が抵抗や拒否ができない状態であることを意味したり、

逆にベテランの部下が新米の上司をいじめることも該当します。

(2)は明らかに業務に必要ない言動のことを指します。

また、(3)は従業員が身体的または精神的に苦痛を感じ、業務に支障が出ている状態のことです。

この(1)~(3)の全てに当てはまる場合が、パワハラになります。

客観的に見て、業務上必要かつ相当な範囲で行われる適正な業務指示や指導については、パワハラに該当しません。

パワハラの種類はさまざまあり、代表的な『殴打や足蹴り』などの“身体的な攻撃”や

『人格否定』などの“精神的な攻撃”のほか、『仕事から外す』や『私的な雑用の強制』などもパワハラに該当します。

また、『継続的な監視』や『プライベートなことに必要以上に立ち入る』なども“個の侵害”といって、

パワハラになるので注意が必要です。


適正な措置を行い、パワハラの根絶を目指す

  パワハラ防止法に基づき、中小企業は、特に以下の措置に積極的に取り組んでいく必要があります。

(1)事業主の方針の明確化およびその周知・啓発

   職場におけるパワハラに関する方針を明確化し、周知・啓発を行います。

どのような内容がパワハラに該当するのか、また、実際にパワハラを行った者に対してどのような対処を行うのかなどを

就業規則等で規定し、従業員に周知・啓発します。

(2)相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備

   社内にパワハラに関する相談のための窓口を設け、窓口の担当者がパワハラの内容や状況に応じて

適切に対処できるようにしておきます。

また、相談窓口を設置したことを従業員に周知しておく必要もあります。

(3)職場におけるパワーハラスメントにかかる事後の迅速かつ適切な対応

   パワハラに関する相談が寄せられた際には、まず事実関係を迅速に確認し、パワハラの被害者と行為者に対して

措置を行う必要があります。

また、再発防止に向けた措置も講じることが義務付けられています。

(4)併せて講ずべき措置

  (1)~(3)までの措置と併せて、相談者や行為者のプライバシーの保護に取り組みましょう。

また、相談したことで、不利益な取扱いを行ってはならない旨を明文化し、従業員に周知する必要があります。


   上記のほかにも、コミュニケーションの活発化や目標の適正化などに取り組み、

ハラスメントが起きづらい環境づくりを進めていくことが求められています。

パワハラやセクハラは人の尊厳を傷つけるだけではなく、貴重な人材を流出させてしまうリスクもはらんでいます。

早めにパワハラ防止法に基づいて対策を講じ、職場におけるハラスメントの根絶に注力しましょう。


※本記事の記載内容は、2022年2月現在の法令・情報等に基づいています。

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 会社の経営状況を示す『財務三表』の目的と重要性  2022-3-10

   会社の財政状況や経営成績を表す会計資料のことを『財務諸表』といいます。

財務諸表は金融商品取引法上の呼び方で、一般的には『決算書』とも呼ばれます。
この財務諸表のなかでも、『損益計算書』『貸借対照表』『キャッシュフロー計

算書』は『財務三表』といい、特に重視されています。

財務三表の仕組みを覚えて定期的に確認することで、会社の経営状態を把握する

ことができます。

将来的な事業計画にもつながる財務三表の見方を確認していきましょう。


経営者が覚えておきたい財務三表

   財務諸表には財務三表のほかに、株主資本等変動計算書や個別注記表などがあり、

全ては会社の財政状態や経営成績を利害関係者に開示する際に使用されます。

利害関係者とは、株主や債権者、投資家などを指します。

債権者は、財務諸表によって債権回収に問題がないかを確認できますし、

投資家にとっても、投資をすべきかどうかの判断材料になります。

また、株主はもちろん、従業員や取引先にとっても、会社の成長度合いや収益性を

把握するためには必要なものです。

財務諸表は会社の経営状態を表すための会計資料なので、経営者も会社を指揮していくうえで

理解していなければいけません。

しかし、一度で全てを理解するのは大変です。

まずは、財務諸表のなかでも、最も重要な財務三表の概要を覚えておきましょう。

財務三表は、損益計算書と貸借対照表とキャッシュフロー計算書から成り立っており、

それぞれ表しているものや、見て分かることが異なります。

まず、損益計算書は、会社の収益から費用を引いた『利益』を表しており

会社の一定期間の経営成績が分かります。

「今年はいくら稼いだのか?」「いくら損失が出たのか?」「どのくらい費用がかかったのか?」

を知りたい場合には、損益計算書を見れば把握できます。

次に貸借対照表は、会社が保有している資産から負債を引いた『純資産』を表しており、

会社の財政状態が分かります。

資産には、預貯金や売掛金などの『流動資産』と、建物や器具備品、長期貸付金などの『固定資産』があります。

流動資産は現金化することができますが、固定資産はすぐに現金化ができません。

貸借対照表で負債の額を確認すると同時に、どのくらい現金化して債務の返済に充てられるのかも

確認しておきましょう。


中小企業に作成義務はないが活用できる

 キャッシュフロー計算書は、現金や預貯金などのキャッシュの残高や増減額を表しており、

一定期間、現金がどのような要因で増減したのかが分かります。

キャッシュフロー計算書は、営業活動、投資活動、財務活動の3項目で、現金の流れを表しています。

営業活動は会社の主となる事業でどれだけキャッシュが増えているかを、

投資活動は設備投資や先行投資でどれだけキャッシュが動いたのかを、

財務活動は資金調達や借入金の返済といった財務にまつわる現金の流れを示しています。

このように、キャッシュフロー計算書も損益計算書や貸借対照表と並んで会社の運営には必要なものですが、

中小企業においてはキャッシュフロー計算書に限り、作成義務がありません。

しかし、一定期間の現金の流れを把握することは、資金の活用状況を整理できます。

これにより資金を有効活用でき、事業の安定的な発展につながります。

中小企業であっても、できるだけ作成しておくことをおすすめします。

損益計算書、貸借対照表、キャッシュフロー計算書の財務三表は項目も多く、見方を覚えるのはとても困難です。

しかし、財務三表を理解できるようになると、明確に経営状態を把握でき、

経営者として会社の成長度など判断もしやすくなります。

財務三表を読み解くことができないと、経営状態が理解できないまま采配を振るうことになってしまいます。

特に中小企業においては、経営者の会計への理解度がそのまま業績に反映されることも少なくありません。

的確な経営判断を行うためにも、財務三表への理解を深めていきましょう。
  

  ※本記事の記載内容は、2022年1月現在の法令・情報等に基づいています。

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株式譲渡にかかる税金の計算方法と注意点   2022-2-16

    企業同士の合併や買収を意味するM&Aには、

事業の一部または全てを他社に譲渡する『事業譲渡』と、

保有している自社株を買収会社に譲渡する『株式譲渡』があります。

株式譲渡では、実質的に経営権を他社に継承させ、

売り手側は買い手側に株式を譲渡することで売却益を得ます。

将来的に、株式譲渡による事業承継が選択肢の一つになったときのために、

発生する税金についても、しっかりと理解しておきましょう。


株式譲渡で発生する税金の計算方法

    非上場の中小企業がM&Aを行う場合、事業譲渡よりも手続きが簡単で税金の負担が抑えられる株式譲渡が選ばれます。

株式譲渡を行う際、株式の売り手側である譲渡企業の経営者は、買い手側である譲受企業から対価を受け取ります。

経営権が譲受企業に移り、株式を手放した譲渡企業の経営者は、経営からリタイアすることになります。

対価を元手に、また新たな事業をスタートさせるのか、それとも悠々自適なセカンドライフを送るのかは本人の自由ですが、

譲渡によってかかってくる税金のことを忘れてはいけません。

株式譲渡の対価となる株式の譲渡収入には、必ず『譲渡所得税』がかかります。

この譲渡所得税を計算するには、まず正確な『譲渡所得』を算出しなければいけません。

譲渡所得は、株式の譲渡収入から、取得費や売却手数料等を含めた経費を差し引くことで求めることができます。

取得費とは、個人である経営者が、企業から株式を取得する際に支払った払込代金や購入代金と手数料、

購入時の名義書換料など、株式を取得するために必要な経費を指します。

また、売却手数料は、M&Aの仲介会社などに支払う仲介手数料のことで、これらの経費を売却収入から引くと、

下記のような計算式で譲渡所得を算出することができます。

【計算方法】
譲渡所得=株式の売却価格-経費(取得費+売却手数料等)


譲渡益を得た際は忘れずに確定申告を!

   譲渡所得税は、『所得税』および震災による復興財源に充てるための『復興特別所得税』(2037年12月31日までに生じる

所得が対象)15.315%と、『住民税』5%で構成されており、合計で20.315%になります。

譲渡所得に、この20.315%を乗じた金額が、譲渡した個人が納める譲渡所得税になります。

そして、この譲渡所得が発生した際は、『確定申告』も忘れずに行わなくてはいけません。

株式の譲渡益のほか、土地・建物等の譲渡や山林所得などがある場合、確定申告時にほかの所得と分ける

『申告分離課税』が適用されます。

つまり、譲渡益は給与所得や事業所得と区別する“副収入”と見なされるのです。

法人の経営者は、自社から給与の支払いを受けているので、通常は個人で確定申告を行なう必要はありません。

しかし、給与所得者であっても、以下の条件に該当する場合は、確定申告が義務となるため留意しましょう。

(1)年間の給与収入が2,000万円を超える

(2)1か所から給与の支払いを受けている人で、給与所得および退職所得以外の所得が20万円を超える

(3)2か所以上の事業者から給与等の支払いを受けている人のうち、給与の全部が源泉徴収の対象となる場合において、

         年末調整されなかった給与の収入金額と給与所得および退職所得以外の所得金額との合計額が20万円を超える

株式譲渡による譲渡益を得た場合は、たとえ年間の給与収入が2,000万円以下でも、給与所得および退職所得以外の所得が

20万円を超える可能性があります。

一般的に、株式の譲渡益が20万円以下になることは少ないため、ほとんどの人が確定申告を行うことになるでしょう。

このときに気を付けたいのが納税の時期です。

譲渡所得税のうち、『所得税および復興特別所得税15.315%』は、毎年3月15日までに確定申告を行ったのち納税し、

『住民税5%』は確定申告後に納付します。

うっかり確定申告を忘れたり、納税期限を過ぎたりしてしまうと、加算税や延滞税が加算されることもあるので注意が必要です。

国内においては、M&Aの件数も年々増加しており、その傾向は今後も続くと予想されます。

高齢化や後継者不足などにより、他社に事業を承継してリタイアを考えている経営者は少なくありません。

その際、多くの企業は株式譲渡によるM&Aを選択することになります。

将来に備えて、株式譲渡にかかる税金について、知識を深めておきましょう。 

  ※本記事の記載内容は、2022年1月現在の法令・情報等に基づいています。

 税務・会計でお困りのことはどんなことでも斎賀会計事務所までお気軽にご相談ください。

     

 基礎知識として知っておきたい『出向』と『転籍』の違い  2022-2-9

   出向とは、自社の従業員に、関連する子会社やグループ会社で働いてもらう

異動の形の一つです。

これまでネガティブなイメージを持たれることの多かった“出向”ですが、

近年は従業員のキャリア形成やノウハウの獲得、企業間交流などの

メリットも注目されています。

出向には、『在籍型(出向)』と『移籍型(転籍)』の2種類があります。

在籍型の出向と移籍型の転籍は労働法に基づく契約関係が異なるので、

経営者はそれぞれの違いを理解しておく必要があります。


出向と転籍それぞれに適用されるルール

   それではまず、出向と転籍の違いについて、整理していきましょう。

出向は、出向元と出向先と従業員の三者による労働契約で区別することができ、

従業員が出向元の企業に在籍したまま、子会社やグループ会社など出向先の企業で勤務することをいいます。

この場合、従業員は出向元の企業と結んだ労働契約を保持したまま、出向先の企業とも労働契約を結びます。

つまり、二重の労働契約となります。

出向先のプロジェクトが終了したり、一定の期間が過ぎたりすると、出向元の企業に戻るのが通例です。

労働時間や休日などの労務提供に関するルールは、出向先のものが適用されますが、

賃金や賞与、退職金などの待遇に関しては、出向元の就業規則が適用されています。

また、労災保険は出向先の条件が適用され、雇用保険と社会保険(健康保険・厚生年金保険)は出向元で加入します。

   一方、転籍の場合、従業員は現在勤めている企業と結んでいた労働契約を解除し、

転籍先の企業と新たに労働契約を結びます。

転籍先の企業に移るため、従業員は基本的に出向元の企業に戻ることはありません。

実質的に退職扱いとなり、従業員に適用される就業規則などのルールは、全て転籍先のものになります。


出向や転籍を命じるときに重要なこと

   このように出向と転籍の違いは、『労働契約の有無』が大きなポイントになります。

一般的に、本社から地方の支社に出向させる場合や、降格を伴う出向は『左遷』と

呼ばれることがあります。

しかし近年では、従業員に経験を積ませたり、他企業の業務を学ばせたりする

ポジティブな意味合いで出向が行われることも増えてきました。

一方、転籍は、従業員との関係を断つことになるため、雇用調整や人員整理などの目的で

行われることが多くあります。

ここで気を付けなくてはならないのが、企業が従業員に出向や転籍を命じる場合、

雇用契約書や就業規則に『出向命令権』の記載があり、従業員側がこの行使に同意している必要がある

ということです。

基本的には、労働契約を締結した段階で就業規則には同意しているとみなされるので、

出向命令権の記載があれば、企業側は出向や転籍を命じることができます。

ただし、出向や転籍によって従業員に不利益が生じたり、社会的に妥当な範囲を越えていたりする場合には、

命令が無効になることもあります。

特に、転籍については出向元の企業と労働契約を解消する必要があるため、

従業員の同意が最も重要な要件だといえるでしょう。

トラブルのない、スムーズな出向や転籍を行うには、出向元と出向先の企業が密に連携を取り、

従業員が働きやすくなるよう心掛けることです。

さらに、異動の内示を行うときは、従業員それぞれの事情や生活環境、人選の合理性なども

考慮しなければいけません。

たとえば、介護や育児のため働く環境を変えることが難しい従業員に出向命令を出すのは不適当ですし、

嫌がらせや、不当な動機で命令を出すこともできません。

出向の命令が、必要性や対象者の選定に係る事情に照らして、権利を濫用したものと認められる場合には、

出向命令は無効となります。

出向と転籍には、まず従業員の生活状況を理解してから、意向を聞いて了承を得るなどの

段階を踏んでいく配慮が欠かせません。

企業側の事情をよく説明して理解してもらったうえで、後々のトラブルを防ぐための同意書を交わすなどして、

適切な内示を行いましょう。

    

  ※本記事の記載内容は、2022年1月現在の法令・情報等に基づいています。

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 企業が行う源泉徴収の範囲と源泉所得税の計算方法  2022-1-19

  

   その年に所得があった人が納付する『所得税』。

多くの人に関わりのある税金ですが、この所得税に対し、

あらかじめ給与から天引きして納める『源泉所得税』が存在します。

この2つには、どういった違いがあるのでしょうか。

今回は、源泉所得税の仕組みや計算方法、経営者と経理担当者が知っておきたい

源泉徴収税のポイントについて説明します。

源泉徴収の基礎知識

   所得税は、暦年1年間の所得に対して納める税金です。

しかし、個人が納税額を算出して別々に納税するのは、本人も納税先となる税務署も手間がかかってしまいます。

そこで、わが国では企業側が給与からあらかじめ所得税分を差し引いて、従業員の代わりに納税する

『源泉徴収』という制度が採用されています。

このときに徴収される所得税が、『源泉所得税』です。

基本的に、源泉所得税は各種控除が適用されていない多めの額が徴収されます。

そのため、企業側は年末に調整を行い、各種控除が適用された正確な所得税額を算出した上で、

差額を従業員に返金します。

これを『年末調整』といいます。

また、企業が源泉所得税を徴収するのは、自社の従業員だけではありません。

給与所得以外にも、以下の支払いが源泉徴収の対象となります。

ただし、対象となるのは個人の所得に限り、法人の場合は下記にあげた、

馬主である法人に支払う競馬の賞金以外は、源泉所得税を徴収する必要はありません。

●原稿料や講演料など

●弁護士、公認会計士、司法書士等の特定の資格を持つ人などに支払う報酬・料金

●社会保険診療報酬支払基金が支払う診療報酬

●プロ野球選手、プロサッカー選手、プロテニス選手、モデルや外交員などに支払う報酬・料金

●映画、演劇その他芸能(音楽、舞踊、漫才等)、テレビ放送等の出演等の報酬・料金や3

  芸能プロダクションを営む個人に支払う報酬・料金

●ホテル、旅館などで行われる宴会等において、客に対して接待等を行うことを業務とする、

いわゆるバンケットホステス・コンパニオンやバー、キャバレーなどに勤めるホステスなどに支払う報酬・料金

●プロ野球選手の契約金など、役務の提供を約することにより一時に支払う契約金

●広告宣伝のための賞金や馬主に支払う競馬の賞金

これらの源泉徴収に対しては年末調整が行われないため、支払いを受けたフリーランスや個人事業主などは、

毎年、確定申告を行う必要があります。


源泉所得税の計算と納税方法

   企業側は、従業員の給与や外部の事業者の報酬から差し引いた源泉所得税を、

給与などを実際に支払った月の翌月10日までに納めなければいけません。

このとき、使う書類が『所得税徴収高計算書』です。

所得税徴収高計算書は所得ごとに種類が違い、従業員の給与から差し引いた源泉所得税には

『給与所得・退職所得等の所得税徴収高計算書』を使います。

この給与所得・退職所得等の所得税徴収高計算書はもっともよく使われる書類で、

企業の経理担当者が納める税金を計算し、合計額を記入します。

では、どのようにして給与の源泉徴収額を求めるのでしょうか。

手順としてはまず、残業代や手当なども含めた月の給与額を確定していきます。

次に、確定した額から、社会保険料などの所得控除を差し引くと、その金額が

源泉所得税を算出するための課税所得になります。

この課税所得を国税庁が発表している『源泉徴収税額表』に照らし合わせて、税額を求めていきます。

現在、国税庁のホームページでは、2022年分の源泉徴収税額表が公表されていますが、

2020年の1月以後、税額は改正されていません。

ただし、短期退職手当等に係る課税退職所得金額の算出方法については改正が行われ、

2022年4月より施行されるため注意が必要です。

また、源泉徴収税額表には、月給制の給与に対応する『月額表』と、

日給制や週給制に対応する『日額表』があり、扶養控除等が適用となる従業員用の『甲欄』、

適用されない従業員用の『乙欄』、日雇い従業員用の『丙欄』があります。

記入する際に、間違えないようにしましょう。

給与所得以外にも、退職所得や賞与所得などにも源泉徴収が必要です。

給与を支払う従業員の数が常時10人未満の法人は、毎月ではなく、年2回に分けて納税できる

『納期の特例』もあります。

『納期の特例』を受けるためには、源泉所得税の納期の特例の承認申請書の提出が必要です。

源泉所得税は企業における税務会計の基本です。

実務に当たっては細かい事項も多いので、国税庁のホームページや、税について書かれた本を参考にするなどして、理

解を深めていきましょう。

  

  ※本記事の記載内容は、2021年12月現在の法令・情報等に基づいています。

 税務・会計でお困りのことはどんなことでも斎賀会計事務所までお気軽にご相談ください。

     

税務調査で指摘されない摘要欄の書き方を知っておこう 2022-1-19

  

   帳簿には取引における勘定科目や金額を記載しますが、

それだけでは取引内容が把握できないため、『摘要欄』に取引先や取引の詳細

など、具体的な情報を記入する必要があります。

もし、この欄が空白だったり、記入された内容があいまいだったりすると、

税務調査で追加の資料を求められたり調査の期間が長引いたりしてしまいます。

今回は、税務調査で指摘されない摘要欄の書き方について説明します。


摘要欄に記入がないとどうなる?

   帳簿とは、事業の取引状況、つまりは収入金額や必要経費の発生など、お金の流れを記録した台帳のことで、

事業活動に欠かせないものです。

しかし、記載されている項目が日付や金額だけでは、後で帳簿を見返した際に、どのような取引だったのかが

伝わりません。

また、帳簿を入力する人物が複数いる場合、摘要欄に取引内容の詳細が記載されていないと、

ほかの人が見たときに、「これは何のことだろう」と疑問に思うかもしれません。

入力した人物はその取引について覚えていても、ほかの人がその取引内容を把握するには、

より詳細に書かれた情報が必要です。

その点からいっても、摘要欄はなくてはならないものなのです。

摘要欄は、日付や金額、勘定科目以外の詳細情報を記入します。

取引先の名称や取引事由など、取引の事実を示す具体的な内容を記入していきましょう。

また、普段の税務申告で摘要欄がチェックされることはありませんが、税務調査においては、

摘要欄への記入の有無が大きな意味を持ちます。

摘要欄が空欄だったり、取引内容が具体的に記入されていなかったりすると、税務官に不明瞭な取引だと

判断されかねません。

その取引が経費に関するものであれば、経費の計上が認められなくなってしまう可能性もあります。

取引があったという事実や取引の根拠を示すためにも、摘要欄は正確に記入しておきましょう。


現在、多くの企業では、帳簿の入力に会計ソフトを活用しています。

会計ソフトにも摘要欄があり、そこに入力したキーワードでソートや検索をすることもできるため、

社内で記入するルールを統一しておくとよいでしょう。

ルールを統一していないと、作業効率が低下するばかりか、肝心の税務調査において、

記入した人しかその内容を説明できず、調査を長引かせてしまうことになります。

では、摘要欄に情報を記載するときのルールは、どのように決めていけばよいのでしょうか。

摘要欄には、取引先の名称や取引内容などを記載します。

取引先に関しては、売上であれば販売先、経費であれば販売元を記入し、

取引内容に関しては、売上であれば販売した商品名、経費であれば購入した商品名を記入しましょう。

たとえば、移動に使用したタクシー代を経費として計上する場合は、以下のように記載します。

タクシー代であることはもちろん、利用したタクシー会社やその区間、移動の目的なども記入します。

<借方>
旅費交通費 
1,380円 

<貸方>
現金 1,380円 

<摘要>
○○交通株式会社
タクシー代 渋谷区笹塚~新宿区住吉
(□□工務店訪問)

この際、前述した通り、社内で表記ルールを決めておくことが重要です。

『○○交通株式会社』なのか、株式会社は省略して『○○交通』だけにするのか、番地や号まで含めるのか、

それも県をまたぐ移動に限って簡略化させるのかなど、あらかじめ細かく決めておくことで、

ソートや検索も容易になり、誰が見ても取引内容を理解できる帳簿を作ることができます。

接待交際費であれば、お店の名前のほかにも、参加人数や名称、食事の目的などを記入しておきます。

ただし、細かくなると入力に手間がかかるので、「○○社・○○さんほか3名」のように、

ルールを定めて省略しても問題ありません。

また、摘要欄には軽減税率についての記載も必要です。

2019年10月からスタートした軽減税率は、消費税10%の引き上げにともない、

特定の品目の税率をほかの品目に比べて低く定めるというもので、現在、食料品などの一部品目の消費税が

8%に据え置かれています。

摘要欄に記載する取引に関しても、標準税率の10%なのか、軽減税率の8%なのかを区別する必要があります。

国税庁では、軽減税率の商品を摘要欄に記載する場合、『※』や『☆』などの記号を記載して、

軽減税率の商品を明確にするよう求めています。

また、帳簿に『※は軽減税率対象』と表記するなど、記号が軽減税率の対象であることを明確にしておきましょう。

帳簿は税務調査の際に必要になるだけでなく、自社の過去の取引における大切なデータです。

きちんと整理された帳簿のつけ方を心がけることが大切です。

  

  ※本記事の記載内容は、2021年12月現在の法令・情報等に基づいています。

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